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雨音の家 1
職場の上司が集まって予定にはなかった会議をしているのは、あまりよい兆候ではない。
何か、好ましくない問題が発生しているのだ。事件の処理に不手際があったのかもしれないし、署内の誰かの不祥事かもしれない。理由は、すぐにわかるときもあるが、そうではなく、巷のニュースで知るようなときがある。
その日の夜、広瀬と宮田は、他の数人と会議室に呼ばれた。課長と高田さんがいる。知らない顔の男が2人。島根県警の刑事ということだった。
数カ月前に大井戸署管内の大学で転落死した研究者がいた。広瀬と宮田はその事件の担当になり、自殺ということで処理していた。
島根県警の2人の刑事が来た用件は、県内で同じような事件があり、さらに、殺人だろうという説が地元のSNSで広がっているからだった。
そのSNSのコメントでは、東京の事件は自殺でもみ消されたとしているらしいのだ。もちろん、そんなことだけでは県警は来ないのだが、島根で亡くなった研究者と東京で亡くなった研究者は、同じ大学の同じ研究室の出身だった。その出身大学から離れた後も、それぞれ同じ研究をしている。その2人が自殺のような転落死を遂げたのだ。関連が全くないとは言い切れなかった。
島根の刑事たちは資料をみながら言った。「遺族や、死亡した状況から、遺体の確認が行われました。それで判明したのですが、亡くなった金井さんは人体実験の被験者だったようです」
レントゲン写真が取り出される。歯のレントゲンだ。
「この歯に金属が埋まっていました。確認をした歯科医師はみたことがないものだと証言しています。歯の治療のためのものではないということです。何かの金属デバイスを口の中に入れたのではないかと、歯科医師は言っています。その先生は、大学教授で、陰謀論をとなえるような人物ではありません」と刑事は言った。
広瀬は、その写真を凝視した。何枚かある中の一つは、奥歯の写真だ。小さいが、なにかが埋め込まれているのはわかる。
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