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雨音の家 2

「死亡の原因が人体実験だとしますと、かなり問題が大きくなります。金井さんが所属する島根の研究室に照会したのですが、人体実験はしていないということでした。島根の研究室については、我々が継続して調べています」 そして、島根の刑事は別な書類を出す。 「我々の問い合わせに対して、金井さんが前に所属していた東京の大学の研究室からも人体実験はしていないという返事でした。しかし、照会後、我々のところに匿名の連絡がありました。東京の研究室では、3名の研究者を対象に実験を行っていたというのです。本来、人を対象とした実験は、どんなに安全なものでも、大学の審査委員会をへて許可を得る必要があります。ところが、この実験については、その手続きが取られず、秘密裏に行われたということでした」 その3人の被験者のうち、1人は島根で死亡した金井だ。もう1人は、東京の別な大学で死亡している。名前は倉元。大井戸署管内の事件のため宮田と広瀬が担当して対応した。 3人目の被験者が誰なのかはわかっていない。 東京の研究者の倉元は飛び降り自殺として処理されたので、特に司法解剖は行われていない。遺体は荼毘に付されており、同じように口腔内に金属があったかどうかは、もうわからない。 また、一度自殺で処理された案件だ。もし、違法な人体実験が原因の事故または自殺ということが証明されれば、島根県警はお手柄だろうが、大井戸署にとっては捜査上の判断ミスとも思われるだろう。 「東京は大都会で犯罪も多いですからね。この程度の、自殺案件に細かくかかわれないというご事情は十分分かりますよ」と島根の刑事は会議の場で言っていた。 皮肉とも同情ともとれる言い方だった。

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