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Ⅰ.秘密の共有
誘ったのは 僕の方からだった。
「じゃあ僕と、…してみる?」
窓の向こうが闇に包まれる頃。
美術室には二つの人影が揺れていた。
「…都合がいいじゃないか。お互い、叶わない恋なら」
黒鉛の紙を擦る音が消え、静寂が僕らを包む。
自分の吐いた小さな嘘が胸をチクリと刺した。ほんの僅かな沈黙さえ、今は重苦しい。
「好きでもない奴となんて…嫌じゃないんですか」
「嫌じゃないから、言ってるんだろ」
背中越しに彼がこちらを振り返ったのが分かり、心臓はいっそう強く拍動する。
「…家、来ますか。三枝 先輩」
罪悪感を感じながらも、僕は小さく頷くことしか出来なかった。それ以外に選択の余地がなかったんだ。
だって僕は、本当は____
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