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「一人…なのか?」 「えぇ。…親の帰り遅いんで」 明かりのついていない一軒家はひどく物悲しく見える。 慣れた手つきで制服のポケットから鍵を取り出し、解錠していく男の背中を じっと見つめては、僕は後悔の念に襲われていた。 「どうぞ」 「矢代(やしろ)、本当に…いいのか?」 「どうしてここまで連れてきたんだと思ってるんですか」 「あぁ…それもそうだな」 「だからほら。入ってください」 掴まれた手首から伝わる彼の熱に、迷いは簡単に断ち切られる。 そこに踏み入れてしまえば 抜け出せなることを知りながらも、僕はそっと地面を蹴った。 「…ごめんな」 戸が閉まるのと同時に小さな声でそう呟く。 その言葉が一体誰に向けられたものなのかは、自分でもよく分からない。 「何か言いました?」 「ううん。…何でもない」 「気が変わったら、言ってください」 「…うん」 突き当たりにある階段を上がる毎に近づく矢代の部屋。 僕は固唾を飲み、その背中を追いかけた。 「ここです。あんまり綺麗じゃないんですけど…すみません」 導かれたその場所のシングルベッドが視界に入り、思わず目を伏せてしまう。じんわりと熱くなっていく頬が煩わしい。 「…先輩」 扉が閉まれば世界は二人だけのものになる。 「今は…違うだろ」 こんなこと間違っていると理解しながらも彼に手を伸ばしてしまうのは、罪なことだろうか。 八代の“あの子”への純粋な好意を利用して 体だけでも 手に入れたいと思うのは、いけないことだろうか。 「(かおる)」 僕ではない“あの子”の名前を呼ばれた時に覚えたのは、微かな胸の痛み。 自らの犯した罪に比べれば、些細な代償だった。 「…圭介(けいすけ)」 “薫”に成り代わって彼の名前を呼べば、逞しい腕に抱き寄せられる。 甘く優しい柔軟剤の香りに包まれながら、静かに瞼を落とした。

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