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灰かぶり。

 Ⅰ 「セシル! まだ起きないのかい。いったいいつまで寝ているのよ! まったくグズなんだから!」  四帖ほどの粗末な納屋の中、爽やかな早朝には不似合いな金切り声が響き渡った。  深い眠りに入っていたセシル・ハーキュリーズの思考はふいに降ってきた耳障りの悪い金切り声で一気に覚醒した。  セシルが目を開ければ、そこには板張りの隙間から漏れた、朝の陽光に反射する無数の砂埃が無機質に漂い、散っている。  その中で、金切り声を上げる彼女は不機嫌そうに目をつり上げ、セシルを見下ろしていた。  金木犀の香りが微かに香ってくる。  今朝はまた一段と寒さが増していた。季節は秋から着々と冬へと向かっているのだ。 「も、申し訳ありません。ビオラ」  セシルが慌てて飛び起きると薄いベッドがぎしりと音を立てた。それとほぼ同時に、突然の息苦しさに見舞われた。咳き込みながら床に(くずお)れる。  壁に備え付けられている時計を見れば、時刻は九時を回っている。  いつからだろう。朝起きるのが億劫になったのは――。  こうして考えている間にも咳は止まらない。肺に空気を送った矢先に口からひっきりなしに飛び出してくる。これではまともに酸素も入ってこない。  セシルは痛む胸を押さえ、背中を丸めて(うずくま)った。 「娘のお腹が空きすぎているのよ。早く食事にしてちょうだい」  彼女は苦しそうに咳を続けるセシルを気遣う様子もない。両手を腰に当て、にべもなくそう言い放った。 『娘が飢え死にしてしまう』  暗にそう告げる彼女だが、二人は昨晩、ベーコンやハム。それにパイをたっぷり食べた。ろくに食事をしていないのは彼女たちの数少ない余り物しか与えられていないセシルの方だ。

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