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差し入れ。
ⅩⅦ
「イブリン、お願いがあるんです!」
季節が過ぎるのは早い。あっという間に十二月初旬を迎えた。
あともういくらかも経てば、今年も終わる。街路樹の枝枝にはあれほどまで目立っていた紅葉が北風に攫われ、その姿を消した。
今となっては剥き出しになった木々があるばかりだ。今年も寒い冬がやってくる。
太陽が傾きはじめた頃、セシルは突然思い立ち、キッチンで夕食の支度をしているイブリンにそう告げた。
「まあセシル。あらたまっていったいどうしたの?」
「えっと、あの……ヴィンセントに、夜食を用意したくて……あの……何が好きなのか教えていただけますか?」
「まあ、そうなの? 嬉しいわ。あの子もきっと喜ぶわね」
セシルが彼に夜食をと決意したのには理由があった。
セシルがカールトン卿への恋心を自覚してからというもの、彼とは殆ど入れ替わりでろくに会話もしていなかったからだ。
セシルとしては、もっとカールトン卿の顔が見たい。できれば話をしたい。そう思っていた。
好きな人に会いたい。けれども邪魔はしたくない。
セシルがない頭であれこれ考えた末に思い至ったのは、『夜食を作って持って行く』ことだった。
さて、差し入れをしようとは思ったものの、彼は食べ慣れている母親の料理ではなく、他人の自分が作ったものを口に入れてくれるだろうか。
「――でも、僕が作ったものを食べてくれるでしょうか……」
彼の好物をイブリンに尋ねたものの、不安になる。セシルの視線は落ちていく……。
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