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彼の好物は?

「セシル、そんなに悲しそうな顔をしないで。一緒に料理をしているわたしが保証するわ。貴方はとても料理上手よ」  彼女は項垂れてしまったセシルの両肩に手を置き、快くカールトン卿の好物を教えた。  その日も案の定、カールトン卿は夕暮れ時になっても顔を出さなかった。なんでもカールトン卿(いわ)く、今年の聖誕祭が近づき、親を亡くした子供たちの養護施設への寄付やチャリティーに物資を送るらしい。  彼はこの時期、毎年のように忙しいそうだ。だからセシルは、夜食として食べやすいリゾットを選んだ。  イブリンから教えてもらった彼の好物は幸いにもハムとコールラビで、リゾットには向いている。これで少しは公務が捗ればいいのだが……。とは思うものの、けれどもセシルにとってそれはただの口実だ。  セシルの本心は、寝る前にひと目でもいいから彼に会いたかった。  いつか、彼は自分ではない女性と生活を共にする。  そうなった時、自分はもうここにはいられない。彼の下を離れなければならない。  だったら今だけでもいいから側にいたい。そう思うのは欲張りだろうか。  ――カールトン卿がいる書斎は誰にも邪魔されない地下にある。  ランタンの明かりを頼りに軽やかな足取りで階段を下りて行けば、そこは使用人が出入りできるようになっている団らん場所がある。それから倉庫と思しき部屋がふたつ並び――部屋の奥から数えて二番目に書斎があった。

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