121 / 241
彼の好物は?
「セシル、そんなに悲しそうな顔をしないで。一緒に料理をしているわたしが保証するわ。貴方はとても料理上手よ」
彼女は項垂れてしまったセシルの両肩に手を置き、快くカールトン卿の好物を教えた。
その日も案の定、カールトン卿は夕暮れ時になっても顔を出さなかった。なんでもカールトン卿曰 く、今年の聖誕祭が近づき、親を亡くした子供たちの養護施設への寄付やチャリティーに物資を送るらしい。
彼はこの時期、毎年のように忙しいそうだ。だからセシルは、夜食として食べやすいリゾットを選んだ。
イブリンから教えてもらった彼の好物は幸いにもハムとコールラビで、リゾットには向いている。これで少しは公務が捗ればいいのだが……。とは思うものの、けれどもセシルにとってそれはただの口実だ。
セシルの本心は、寝る前にひと目でもいいから彼に会いたかった。
いつか、彼は自分ではない女性と生活を共にする。
そうなった時、自分はもうここにはいられない。彼の下を離れなければならない。
だったら今だけでもいいから側にいたい。そう思うのは欲張りだろうか。
――カールトン卿がいる書斎は誰にも邪魔されない地下にある。
ランタンの明かりを頼りに軽やかな足取りで階段を下りて行けば、そこは使用人が出入りできるようになっている団らん場所がある。それから倉庫と思しき部屋がふたつ並び――部屋の奥から数えて二番目に書斎があった。
ともだちにシェアしよう!