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胸の高鳴り。

「あの、ヴィンセント。夜食をお持ちしました」  書斎へと続く両扉は分厚い。ふわっと湯気が立ち上がるリゾットを乗せたトレーを片手にセシルがノックすると、彼の返事が中から聞こえた。  彼の声を聞くだけでセシルの胸は高鳴り、ときめく。それはすべて、恋心のなせる技だ。  火照った顔をどうにか誤魔化すために顔を俯け、イブリンから教わったリゾットを穴があくほど見つめる。  すると、セシルとカールトン卿を隔てている扉がゆっくり開いた。一筋の橙色の明かりが廊下に差し込む。  ――ああ、今夜のカールトン卿もとてもハンサムだ。すらりとした長身に、まるで絹糸のようなプラチナブロンド。そして自分を写す曇り無きサファイアの瞳。  セシルはこうして彼に庇護されるようになってからというもの、彼の容姿を見続けているというのに、ひと目その姿を見てしまえば、はじめて出会った時のように胸が弾む。  セシルの心臓が、どくんどくんと大きな鼓動を繰り返す。 「君が食事を作ったのか?」 「はい。お口に合えばいいのですが……」  トレーの上に乗ったリゾットとセシルを交互に見下ろした彼が尋ねると、セシルは深く頷いた。 「ありがとう。後でゆっくりもらうよ」 「……っ」  彼の手が、トレーを持つセシルの手をわずかに掠める。たったそれだけで、セシルの心臓が大きく跳ねた。 「今夜はもう遅い。部屋に戻ってあたたかくして寝なさい」 「あの、貴方が食べるのを見届けるまで部屋には戻りません」

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