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不味。
セシルがそう言った理由はふたつある。
ひとつは、もっとカールトン卿の側にいたいと思ったから。
そしてふたつめは、差し入れたリゾットの味が気になったからだ。
早鐘を打ち続ける心臓は鳴り止まない。それでもセシルは彼から視線を逸らさず、どうかもう少し側にいたいと願う。
すると彼は観念したのか、扉を大きく開けた。
彼はどんなに忙しくともセシルを追い出さない。
カールトン卿はセシルを書斎に招き入れ、書類が散らばっている事務机とラウンジチェアがあるその後ろのテーブルを挟み込むようにして配置されているソファーに座るよう促した。
それからセシルと向かい側のソファーに座り、リゾットが入った平皿をトレーから取り出した。
スプーンで掬い取り、薄い唇に運ぶ。
すると彼は口を動かすことなく、すぐに飲み込んだ。
カールトン卿の薄い唇は引き結ばれている。
「美味しいよ、ありがとう」
そう言った彼の表情は固い。――ということは、彼が指し示す答えはただひとつ。どうやら味は最悪だったらしい。
カールトン卿は美味いと言ったが、彼の表情すべてが料理の味を物語っていた。
彼はとても優しい。だからこそ、けっして彼の言葉を鵜呑みにしてはならない。
「――――」
やはり自分の料理は彼の口に合わなかったようだ。
こんなことなら見栄を張らず、イブリンに夜食を作ってもらうようお願いすればよかった。
セシルは今さらながらに後悔する。
けれどもそれも今さらだ。自分が作ったリゾットは彼の食道を流れ、胃に送られてしまった。今さら後悔してももう遅い。
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