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のろま。
「――っつ、ごめんなさい。美味しくありませんでしたね。無理に食べて頂かなくてもいいです。あの、イブリンにっ! 何か作って頂くよう、お願いしてきますね」
幸い、今ならまだ彼女が起きている時間帯だ。何か簡単なものなら作ってくれるかもしれない。
自分は大好きな男性の役にも立たない。
そう思い知らされれば、とても苦しい。
セシルは慌ててカールトン卿の手からスプーンとリゾットが並々と入っている皿を取り上げた。
視界は潤み、涙袋に涙が溜まっていく。
あまりの悲しみに打ちひしがれたセシルは出てくる涙を引っ込めることもできず、鼻をすすりながら重い腰を上げた。
ただでさえ、セシルは大好きなこの男性の仕事の邪魔をしている。
それなのに、不味い差し入れを食べさせるなんて役立たずもいいところだ。
『何をしているんだい、こののろま!』
頭の中でビオラの声がする。自分はどうやら本当に役立たずでのろまだったようだ。
彼女はけっして意地悪からではなく、真実を言っていたのだとセシルは理解した。
自分は好きな人の役にさえも立たない。
セシルがカールトン卿のためにできることがあるとすれば、それは息を殺し、存在を消すこと以外に他ならない。
「……ごめんなさい」
側にいたいなんておこがましいにも程がある。
そう思い知れば、胸が押し潰されそうに痛む。滾々 と涙が溢れてくる。
「カールトン卿のお邪魔を、する気はなかったんです……ごめん、なさい」
自分はカールトン卿の役に立ちたかっただけ。どうかそれだけは判ってほしい。
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