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ごめんなさい。

 謝罪をするその声は震え、か細い。だからきっと、次から次へと仕事をこなさなければならない多忙な彼には聞こえていないだろう。セシルは彼から背を向け、ドアノブに手をかけた。  この部屋を訪れた当初とは打って変わって、足取りは重い。  セシルが部屋を出るその途端だった。突然背後から腕が伸び、そうかと思えば、すぐに膝が掬い取られて身体が宙を浮いた。 「わっ!」  セシルは突然現れた腕と浮遊感に短い悲鳴を上げた。  背後にはカールトン卿の息遣いが感じられる。びっくりして振り向けば、自分はまた書斎に戻っていて、しかも彼の膝に乗っているではないか。 「あのっ! ヴィンセント?」  彼の名を呼ぶその声がひっくり返ってしまうのは仕方がない。なにせ自分は今、後ろから抱きかかえられているのだから……。  しかも、ソファーではなく、ラウンジチェアに座るカールトン卿に、だ。  狼狽えるセシルをよそに、彼はリゾットが入った平皿と、それからスプーンをセシルから奪い取った。 「すまない。ぼくはあまり感情を表に出すのが苦手でね。美味しいよ、ありがとう」  そう言うと、すぐにリゾットが掬われ、ふたたび彼の口元へと運ばれていく。  彼の一挙一動に目が奪われる。沈んでいたセシルの気持ちはあっという間に浮上する。  心臓は大きく鼓動を繰り返し、もう泣くどころではない。 「あ、あの……このままじゃ、食べにくいでしょう?」  セシルが尋ねると、 「構わない」  彼は直ぐさまそう返事を返す。 「あの、公務のお邪魔になります」

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