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1.ZERO℃ギミック【1】
「……ふん、言った本人がくたばってんじゃねえよ」
淡く辺りを照らす月明かりと、一定の間隔で佇む街灯の下で、広がる光景を冷淡な瞳に映しながら呟く。
地に伏せ苦悶の表情を浮かべ呻いている者、完全に意識を手離している者、周りに存在しているタイプは様々だ。
ぶちのめしたのは、俺。
夜道を1人彷徨い歩いていた時に、物騒なモノを持ち突然目の前に現れた。
発された言葉からして、いつの日かに潰した何処かの誰かの仲間だったらしく、報復の為に探しまわっていたようだ。
「……呆れる弱さだな。何処の誰を、ブッ殺すって……? ナメてんのか」
何か色々と恨み辛みを言いたいようだったが、辛抱強く最後まで話を聞いてあげられる程、寛大でもなければ内容に興味もない。
わりぃな、俺は人間出来てねえんだ。
群れることしか出来ない輩が現れたことにより当然気分を害し、拳を一切使わずに足だけで全滅させた。
どれだけ人数が多かろうと関係がない、がむしゃらに鉄パイプを振り回す者の動きなんて容易く読めるのだから。
繰り出された攻撃を鮮やかにかわし、強烈な一撃を叩き付け、やがてこの惨状が出来上がった。
「……つまんねえんだよ、どいつもこいつも」
吐き出された息は気だるい、耳に幾つも飾られていたピアスを弄りながら言葉を紡ぐ。
情けなど一切なく、すでに集団への興味を無くした足は、またゆっくりとあてもなく歩き出していく。
「君……! ちょっと待ってくれ!」
数歩先へ進んだところで、背中へ掛けられる呼び声。
今夜に限って何故こうも歩行の邪魔が入るのか、落ち着きかけていた気持ちがまた渦を巻いていく。
「……っるせえな、テメエに用なんかねえっ!!」
何処の誰かなんて知るはずもないけれど、今は虫の居所が相当悪い。
運がねえ自分を恨んで、ココで仲良く寝てろ……!
「!?」
バッと勢い良く振り返り、声の主へ向け一気に詰め寄れば、容赦のない回し蹴りで意識を奪いにかかる。
「遅い」
「……ぅっ!」
確実に一発で仕留められるはずだった蹴りは鋭くかわされ、予想外のことに驚いている間に重い衝撃が腹部へと加えられる。
見事に入っていた、相手の蹴り。
得意としている蹴りを、相手から食らったことなんてこれまであっただろうか。
だが現実に今、鈍い衝撃に意識を次第に奪われつつある。
「あ、すまんっ! ついっ……!」
朦朧とする意識の狭間で捉えられた、あたふたと急に慌て出したスーツ姿の男。
「……こ、んな奴にっ……」
「君っ! しっかり! あぁどうしようっ……やばいなあ、つい身体が!」
俺は……、こんな奴に負けたのか……。
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