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幾望 / 和泉莉緒

―あ。 この前三日月や、と思って見たのに。もうえらい肥って、明るなったな…。 地下鉄の駅から出た和泉は、夜空を見上げた。 この世をばわが世とぞおもう望月の欠けたることのなしとおもへば ―藤原道長やっけ? セレブなおっさんが人生のピークを自慢した歌やんな。 ―欠けっぱなしのオレとは、月とスッポン。 オレと静やったら、ケータイ着信音とフルオーケストラか? ―かなりの格差やしなぁ。 いつやったか、ドラ○もんで見たけど 月まで歩いたら、何年かかる計算やったかな? けっこう近くに見えてるのに、実はなかなか遠い。 届きそうで、届かへん。 そうかと思たら、後ろをずっとついてくる。 ホンマに、不思議やな。 ―離れとるから、不安になる? 見えへんから、勝手に想像して、イライラするんか? って、その前に オレら、御互いのこともよう知らんまんまやもんな…。 『敢えて知る必要がない、そうだろう?』 最初ん時に、まるでスパイ映画みたいなカッコええ言い方されて、それっきりや。 静は滅多に、自分のこと話さへんしなぁ…。 そやから、あのネタバレは、ものスゴい効いた。 あの有末静が、目の前のこの男やて!? 今でもちょっと信じれてへん位やもんな。 それでも、たまにネットとか、雑誌とかでちょこちょこチェックするようになった。 若干、ストーカー入ってるような気もするけど 自分でもキモいな、思うけど、止められへん。 ―やっぱり新刊は、気になるしな。 もっと近付きたい。 もっと知りたい。 そしたら、今と何か変わるかもしれへん。 ―そうや! 向こうから来るんを待ってるんやのうて、オレが自分から…。 かじかみかけた指先が画面をソッと叩いた。 「あ~。せい?起きてた?」 『ああ…。』 疲れたような声の後ろで、ザワザワと音がする。 らしくない態度が気にかかったが、着信のタイミングと恋愛相談の内容がそうさせたのだろうと安易な納得をした。 ―そんなことより。 アレの話が先や。 「短篇綴り、発売するんやてな。昨日知った。サイン本とか、送ってくるなよ。」 言外に嫁に気付かれたくない、と匂わせたつもりだった。 「その代わりに何をしてくれる?」 ―交換条件か? あまりにもらしい言い種に軽口が出た。 「はぁ~?悪い事せんから金よこせとか世界中に喧嘩売る、どこぞの将軍様みたいやないか。まあ、静も大概オレサマやけどな。」 だったら、コッチもちょっと大きく出たろ。 「その本持って来たら、考えたってもエエで。」 「関西での打合せは、30日だ。それ以外はムリだな。」 ―選りによって土曜。 しかも、ゴルフの入ってる日やないか。 でもまぁ、ええか。 「…夜やったら、何とかなる。あぁ、激しい運動はナシで頼むわ。ほな、またな。」

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