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ほろ酔いチェックイン 1 /和泉莉緒

「呑んだな~」 「うん。結構呑みましたよね。オレは、せいさんほどやないけど。」 「いや。どっちかって言えば、和泉のが食ってたよな?」 「あっ。…バレてました?」 呑み屋を出て夜道をぶらぶら歩くのは、気持ちいい。 それは、酔ってるせいもあるけど、相手がせいさんだって事が大きいと和泉は思った。 「ちょっと。歩くの早いっ!」 「え!?まさか、もう足にキタとか言いませんよね?」 半笑いで振り返ると、ジロリと睨まれ、和泉は肩をすくめた。 「…なぁ。ちょっと休んでかない?」 「へ!?」 指差された看板を見て、マヌケな声が出た。 ―特にそういう意味は、ないと思う。 うん。マジで疲れてるんだろう。なんてったって12月前だ。毎日ハードな仕事に心身ともに… 「うぉっ!」 和泉の気も知らぬげに、せいがグイと腕を引いた。 「ほら、行くぞっ!」 「えええぇ?マジっすか!?」 2人が入ったのは、ビジネスホテル。 「ダブルで。」 って、かなり堂々と言いましたけど、せいさん。 此処は、バーじゃないんですよ!? オタオタしつつも、置いてきぼりにされたら大変だ。 スタスタ歩くせいにくっついて、和泉はエレベーターに乗りこんだ。 ―しっかりしろ、オレ!! 自分に言い聞かせたが、既に手汗がハンパない。 ぬめる掌を意識すると、心拍数も一気にあがったような気がした。 「でさ。和泉はどっちがいい?」 部屋のドアを開けて、せいが振り返った。 「は?な、何のことですか?」 「決まってるだろう?」 ニヤッと笑った顔を直視デキマセン…。 ―うわっ! 上着脱いだだけですか、あー、ビックリしたー。 「コーヒーかお茶、どっちにする?」 訊きながらも、カシッて音がしましたよ。まだ飲み足りないんですか? 内心ツッコミつつも、表面上は静かに答える。 「お茶にします。」 ―てか、その前にトイレ…。 しこたま飲んだ液体の効果を今さら感じて、そそくさと出してくれば 「スッキリしたか?」 ドアの前にいた男の顔を見て、和泉は落ち込んだ。 ―そのシュッとした顔でこういうことを言うのは、マジでやめて欲しい。 だけど。 折れそうなココロが、今になって、反発を始めた。 ―ヤられっぱなしは、オレかって悔しい。 「ところで。せいさんは、どっち派なんですか?」 「まぁ、別にどっちでも。」 「そう言うと思いましたよ。」 和泉は、そっと滑らせるように、右手をせいの肩へと乗せた。

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