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泊 /和泉莉緒

「なぁ、大丈夫か?」 せいの借りてくれた部屋に着くなり、須永から電話が入った。 「は?なんやねん、藪から棒に。」 「おまえ、最近、何かおかしいで?」 「そうか…?」 ギクッ、としつつも、オレはなるべくいつも通りの態度で、返事をした。 「おまえなぁ。俺にまで、とぼけるんか?」 「せやから、何の話や?いうてんねん。」 せっかく作った静との時間を邪魔されて、オレはイライラと聞き返した。 「まぁ、おまえのことやから、何か訳があるんやとは思うけどな、かなり噂になっとるぞ。」 「ウワサて…何のこっちゃ?」 「立花や。心当り、あるやろ?」 ―へ。立花? 「立花、て。あの立花とオレ!?」 意外過ぎて、思わず声がデカなった。 後ろからの視線が、何となしにイタい…。 「おまえに泣きながら、告白したとか、聞いたぞ?」 「アホらし!おまえまでそんなガセネタ、信じたんか!?」 「…いや、さ。それだけなら、俺かて、へぇ~で済ませたわ。でもアイツ、最近妊カツ始めたって言うしな。その上、おまえが雲隠れなう。アイツも駅で見た時は家出みたいな大荷物やったし。コレだけ揃ったら、1回は疑いたくもなるで、しかし。」 「なんっでやねん!?なんで、立花が泣いたら、オレと妊カツするんや?おまえ言うてることが、全っ然メチャクチャやで。」 思いっきりツッコンだ。 「和泉…?」 ちょうどええタイミングで、静が呼んでくれた。 「こっちに、座らないか?」 体が冷えきってるオレの為に、コーヒーを淹れてくれたらしい。 オレは、左手でカップを受け取った。 「あれっ?今、男の声がしたで?」 「ああ、そうや。今オレ、知り合いんとこに、おるねん。そやから、立花のことは、何も知らん。ほな、またな。」 「あ、…ああ。またな。」 気落ちしたような声やったけど、オレは構わずにスマホの電源を落とした。 「悪い。今のは須永って同僚で。カノジョと喧嘩したらしくて、行き先知らないか?ってさ…。」 それ以上言うなとばかりに、キスされた。 ―たぶん、嫁から須永に連絡が行ったんやろ。 せやから、今の電話に出たんは正解。 それから、須永が立花に気があるんも、確かな事やし。 だから、カノジョというのも、あながち嘘やないと思う。 でも、静にとったら、そんなことは、もうどうでも良かったらしい。 ぎゅうぎゅう抱き締められて、そのままソファーへ押し倒された。 「和泉。」 吐息まじりの響きが、耳を擽って…腰にキた。 何とか首を捻って、触れるだけのキスをオレからしてみた。 「…拓真って、呼んでくれ。」 言ってしまってから、かなり後悔した。 ―アカン! なんやコレ。死にそうに、恥ずかしい。 けど今は。 「和泉」やない、夫でも、父親でも、社員でもない、ただのオレでありたい…。 願いを込めて、背中に腕を廻した。 「どういう字を書く?」 「開拓の拓に、…真実の真。」 「まことにひらかれる?そのままだな。」 笑いを含んだ声に、体の芯までゾクゾク震えた。 「へ、変なこと、言う、なよ。」 「変じゃない。それに、本当のことだろう?」 ゆっくりとクスクス笑いが、下へと向かってゆく。 「ま、待って!オレ、風呂入って来てない、から…。」 身の縮むような思いで、言うたのに。 「上等だ。」 臍の辺りに唇をつけたまま、せいが笑った。 「え…?」 ベルトが外され、スラックスが下ろされた。 「なんだコレは?」 せいが顔をしかめた。 「…ヒート○ックのパッチ。」 ―せやから、言うたのに。 「色気もクソもない。」 文句を言いながらも、丁寧にヒート○ックの窓から取り出そうとしてる。 「ぁ、遊ぶな!」 「この位の遊び心は必要だ。」 「あ…。」 いきなり直に触れられて、声が出た。 他は全部着ているのに、ソコだけ出てるとか ―まるで露出狂のオッサンみたいやないか!? メチャメチャ恥ずかしい。 「…いや、だ。」 何が嫌か、ちゃんと言わんと伝わらへんし。 せいは、イチイチ訊いてくれるほど親切やない。 スるんなら、全部脱いだ方がええ。 ―『準備』もあるしな。 オレは、覚悟を決めて、口を開こうとした。 したのに。 「イイコトを思い付いた。」 「は?」 急にせいの体が離れて 重みや、温もりが消えて、一気に不安にさせられた。 ―あの目の輝き。 ものっそイヤな予感がする…。 「今夜は特別だ。何から何まで『手伝って』やる。」 「なっ!まさか、そんな…っ!!」 「俺といるなら、羞恥心は捨てろ、と言ったはずだ。」 「そやけど…。」 恥を感じないっていうんは、一体どんな感覚なんやと思ってしまう。 さんざん弄られて 焦らされて 追い詰められて ホンマにワケわからんなってる時は、恥ずかしいとか、感じる余裕もなんもあらへんけど。 オレがそうなるまでには、結構手間暇掛かるし。 せいかて色々疲れるんやろな…と思う。 「がんばって、みる。」 ヒョイと眉が上がった。 それから。 ゆっくりゆっくり全部脱がされて バスルームへ引っ張り込まれた。 せいの手に掛かったら オレの『恥ずかしい』は 果てしなく、どんどん増えていくばっかしで。 いつもより、バッチリ反応しまくって、最後にはトブ位よがって泣いて、せいをえらい悦ばせた っていうのは、言うまでもないやんな?

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