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before V /和泉莉緒

―ふぅん。 もうじきバレンタインか…。 赤いハートで彩られた売り場を 和泉は遠くから眺めて考えた。 ―そういうたら 静は、甘いもん、喰うんかな? 注意深く思い返してみたが、あの男の傍には、スイーツの類いは欠片もない。 代わりに、様々なアルコールとツマミの類が思い浮かんだ。 ―コーヒーかて、いっつも砂糖入れんもんなぁ。 チョコ以外やったら、何がええかな? 大抵、何でも持ってそうやし。 オシャレさんやしなぁ。 ハンカチ1枚にしたって、独特のコダワリが、ありそうやもんなぁ…。 ヘタな物は贈られへん。 かというて、オレのなけ無しの小遣いからやったら、高級品には手が出えへん。 ―うーん。 やっぱり酒、かな? むこうには、あんまり出回ってへん限定物の日本酒とか…? ―あぁ。 どっかで1回、ゆっくり呑めたら、ええのになぁ。 ―うわっ!! なんや、いきなり少女マンガみたいなベタなセリフが聴こえてきたで!? 『和泉。俺は、おまえがいれば、それでいい。』 ―はっ! 恥ずかしっっ!! 耳まで赤くなった顔を咄嗟に持っていたカバンで隠した。 ―ヤメヤメヤメ! 大体キモいやろ!? 男同士でバレンタインとか…。 30過ぎた男が考えることとちゃうやろが!! 小さく頭を振って、必死に忘れようとした。 ―あーっ。 なんやメチャメチャ喉、渇いたわ。 水や。 冷たい水、飲も…。 走り込んだコンビニの中でも、何度か赤いハートが目の前にチラついた和泉なのだった。

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