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第1話《Backstage》

■  窓一つとない八畳ほどの一室。青年は革張りのソファに脚を投げ出すように座り、対面する壁をじっと見つめていた。壁には一メートル四方のパネルが掛けられており、そこには引き伸ばした男の写真が収まっている。  その男の名は須藤 仁。表社会はもちろん、裏社会でも名を馳せ、知らない者はいないほどの男だ。 「本当にいい男だな……」  見ているだけで青年の股間が熱くなってくる。青年は徐ろにジーンズのジッパーを下ろすと、一物を取り出した。緩く扱き始めた時、突然部屋のドアが開く。 「おぉっと……悪い」 「もう……いつもノックしてって言ってるでしょ」  青年は慌てることもしないで、面倒そうに一物を下着の中へと戻す。部屋に入ってきたのは四十代後半の男。青年が世話になっている男だ。 「ここはオレの部屋でもあるからな。それにしても、本当にお前は好きだな……」  男はパネルの男を見て苦笑を浮かべる。苦笑であろうと、この男が表情を作ると、それなりに人間らしくなる。普段は蛇のような三白眼で、目付きも悪い上に人相もすこぶるに悪い。この男の生業を考えると相応しい顔ではあるが。 「あのシャープで冷たい目に高い鼻梁。男らしく整った眉に、少し薄目の綺麗な唇。全てが完璧だ。身体もスーツの上からでも分かる程の強靭な肉体……」  うっとりと写真を眺める青年に、男は呆れたような目付きを投げる。 「須藤という男は見た目はいいが、かなり冷酷非道なのは知ってるだろ? やめておけ、そんな男」 「何度も言ってるけど、そこがいいんじゃないか。誰にも心を許さない。情を移すことがない……。そう信じてたのに……」  最後は憎々しげに口にし、青年はコルクボードに貼ってある写真を睨んだ。その写真には美しい青年が写っているのだが、鋭利な物で切り刻まれ、ほぼボロボロになってしまっている。 「アイツが現れてから、須藤様の心はアイツに占められている! 許せないっ」  ギリギリと歯を食いしばる青年に、男は宥めるように肩に手を置く。 「頼むから良からぬ考えは持つなよ? 余計なトラブルは御免だ。相手があの男なら尚更。お前には窮屈な思いをさせているが、その〝顔〟では──」 「分かってるよ。親父からも厳重に言われてるし、スケジュール表だって渡されてるから。それ以外の日は完璧に仮面をつけて過ごすからさ」  青年は男に笑顔を見せつつ、内心ではあの美しい青年に憎悪を膨らませていた──。
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