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第10話 雌イき

「綾人、遊ぶのは構わないけど、ちゃんとルールは守って。生徒に手を出すのは、マズいでしょ」 「遊びじゃない! 無責任な事を言うな!」  俺を閉じ込めた綾人の腕に、力がこもる。苦しいくらいだ。  だけど、事実は事実で。  こいつ、婚約者が居たのか……。  発情期の不安定も相まって、涙が頬を伝う。小さく嗚咽する俺の顔を覗き込んで、華那と呼ばれた女は言った。 「ああもう、ほらー。本気になって自殺でもされたら、いっぺんに天国から地獄よ」 「黙れ。俺が好きなのは、四季だ。今、気が付いた。親が決めた許嫁のお前なんか、すぐに破談にする」  チラと濡れた目線を上げて覗うと、大胆にくびれたウエストを見せるヘソ出しTシャツに、超ミニのフリルスカートを履いた、若い女だった。  男と女だから当たり前だけど、俺より可愛くて華奢だ。  アヒル口を尖らせ、華那は腰に両拳を当てて、言い放った。 「二十歳(はたち)の誕生日に抱いてやる、って言われたから楽しみにしてたのに、音沙汰がないと思ったら、男の子と浮気してたのね」 「浮気じゃない。本気だ」 「駄目よ、綾人。華那を誰だと思ってるの? 森田グループ会長の孫なのよ。破談になんかしたら、今後小鳥遊とは取り引きしないんだから」  うっ、と綾人が怯んだのが分かった。  頭が冷えてきて、事情が飲み込めてくる。  華那は、親の決めた綾人の許嫁。二十歳。  綾人も受け入れて、二十歳になったら身体の関係を持つつもりだった。  だけど今、俺の事が好きだと気が付いた。  でも、大手食品会社・森田グループと小鳥遊の取り引きの為に、華那を拒む事は出来ない。  俺は、また裏切られた。  俺の事を『好き』だと言う奴らは、多かれ少なかれ、Ωのフェロモンに当てられた連中で。誰も本当には俺を『好き』じゃない。  今までは同級生や下級生の女子だったから、無理やり手篭めにされるような事はなかったけど、たまたま綾人がフェロモンに惹かれやすい体質で、強引に奪われただけ。  そう思って、早々に諦めるのが、一番傷付かない方法だった。 「とにかく、出て行け!」  綾人が華那に怒鳴ってる。  でも俺は綾人の腕を押し退けて、立ち上がった。 「良い。俺が出てく」 「四季、待て……」  後ろから手首が掴まれるけど、衝撃があって離された。 「華那!」 「バイバイ、少年」  ドアを閉める直前、自分が許嫁だという余裕からか、笑い混じりの華那の声がした。     *    *    *  俺は嗚咽と涙を隠す為に、手近にあったトイレに飛び込んだ。個室に入って蓋の上に腰掛け、ふうっと大きく息をつく。  キスされてる間は、ホントに綾人が運命の相手じゃないかと思ってた。  今まで『好き』って言われて、ピンときた事はなかった。みんな、フェロモンに当てられた、何処か焦点の合わない目をして。  でも綾人に『好き』って言われた時、子宮が疼いた。番いの相手は本能で分かるって聞いてたけど、まさしくそんな感じだった。  でも俺と番う為に、副理事長を辞めたり、森田グループとの責任を取らされたりして欲しくない。  それは紛れもなく、俺も綾人が『好き』なんだという事だけど、諦めなくちゃいけなかった。 「あ……」  冷静になると、パンツの中が冷たい事に気付く。さっきまでは、弾けてしまいそうなほど、熱かったのに。  手を入れて確かめると、分身の先端からは我慢汁が、後ろからは男を受け入れる為の愛液が、パンツをびしょびしょにしてた。  カラカラとトイレットペーパーを巻き取って、パンツの中を拭く。    前を弄って自慰をした事はあったけど、『男』としての意識で、後ろを弄ろうと思った事なんかなかった。  だけど今は、直腸の奥にあるっていう子宮口が、きゅうきゅうとヒクつく。 「ん……」  俺は膝まで下着とスラックスを下げ、ローファーの爪先を上げて個室のドアに突っ張り、薄い茂みの奥にある孔(あな)に指を伸ばした。  一本入れたけど、物足りなくて、もう一本入れる。 「んっ・ン」  片手で口を塞いで、片手で後ろを弄って自慰をする。  拭いたけど、すぐに後ろは愛液で潤って、指の滑りを良くした。  どうしよう……おかしく、なりそ……っ。 「ん・あっ」  初めての行為、しかも学校の個室での自慰に、俺は異様なほど興奮してすぐに上り詰めた。  前は緩く立ち上がったまま、直腸の奥に全神経が集まっていくような気がする。  ハッハッと浅く速く息を吐いて、俺は強烈な快楽を逃がした。 「ン――……!!」  後ろがきゅうと指を締め付けたかと思ったら、緩急をつけて収縮する。  前からは何も出ない。初めての雌イきだった。 「はぁ……」  俺は再びトイレットペーパーを巻き取ると、まだヒクつく後ろの孔を拭って、スラックスを上げた。   「綾人……」  イく瞬間、脳裏に浮かんだ初めての想い人を呼んでから、俺は個室のドアを開けた。

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