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「はぁ、は……ぁ」
いい、気持ちいい、と脳裏を巡るいやらしい羅列に酔いしれ、くちくちと先から溢れる証が増すと共に、一際大きな快楽が押し寄せてくる。
頭が真っ白になり、ひくりと身震いすれば狂おしい程に擦り付けていた手へと、びゅると一層淫らな体液が飛び散り、ぼうっと虚ろな眼差しが前を見つめる。
余韻に浸り、甘やかな痺れにまとわりつかれて気だるく、急激に熱が引いていく。
「曖希?」
呼び掛けと共にコンコンと扉を叩かれ、そこで一気に我に返って飛び上がりそうなほど驚き、心臓が乱雑に脈を打っている。
「食ったばっかで立てこもるなんて消化早すぎねえ?」
「うるせえな気ィ遣えよ! 健康でいいだろ」
「はいはい、まあいいけど。あんま時間ねえから早くな。そろそろたぶん、お迎え来るだろうし」
平静を装いつつ返答し、足音が遠退いて深々と溜め息を漏らし、俺は一体何をやってんだと頭を抱える。
そしてすぐさまトイレットペーパーを引っ掴んでは後始末に追われ、降り掛かった異常事態を自分に説明出来ないでいる。
「有り得ねえ……。くそっ……、なんなんだよ」
目を凝らし、隅々まで入念に拭き掃除し、今しがたの自分を思い返しては激しい自己嫌悪に駆られる。
抑えきれなかった、どうしてか身体が熱くなった。
一度や二度じゃない、こうして遠ざけてもふとした拍子に蘇り、淫らな熱がいとも容易く抱き込んでくる。
塁と事に及んだのもすでに何回かあり、拒んでも結局は流され、素面で聞いたら死にたくなるような台詞も沢山言わされた。
最早家は安息の地ではない、だからこうして外では友人と離れずにいるわけだが、これでは罪悪感にまで駆られる一方である。
「あ、ほら噂をすれば」
細部まで目視し、ようやく出て換気扇を回し、流しへと近付いて手を洗う。
すると呼び鈴が鳴り、奥からやって来たミハルが話しながら玄関へと赴き、施錠を外して扉を開ける。
「オッス~! 迎えに来たぜ!」
程無くして顔を覗かせ、次いで賑やかな声が室内へと響き、馴染みの面子が佇んでいる。
「あ、マジで曖 ちゃんいる! 何お泊まり!? えっち~!」
「そうそう、えっちな事しました」
「馬鹿言ってんじゃねえよ」
軽口を叩くミハルを小突き、部屋へと戻りながらもばつが悪く、つい先程の事を思い返して内心謝る。
会話を聞きつつ、気は乗らないが制服に着替え、行きたくないが行かねばならない。
袖を通し、ズボンを穿いて自然と溜め息が漏れ、本当に自分はどうしてしまったのだろうかと考える。
アイツのせいだ、それは間違いない。
けれども何故、嫌なはずなのに頭から離れず、おまけにあんな事になってしまうのだろうか。
「ハァ~……、ぶん殴ってやりてえ」
でも会いたくねえ……、と胸裏で続け、学校に行けば必ず居るであろうしどうしてか絶対に顔を合わせてしまうのだ。
学年も違えば交友関係も異なるので、会ったところで殆ど会話も始まらないのだけれど、視界に入れるだけでも嫌なのである。
「どうせ居るんだろうなあ、今日もあの張り倒したくなる胡散臭い笑顔で……。ああ、やだやだ」
止まらない溜め息と共に、ぶつくさと文句を並べながら支度を整え、とうに準備を終えていたミハルは未だ玄関で立ち話している。
「よお、曖希。準備終わったか?」
「ん……、ああ。終わっちまった」
「観念しろ。行くぞ」
「お留守番したい」
「可愛く言ってもダメ。ほら、来いよ。ワンコ達が尻尾振って待ってんぞ」
「へいへい」
行くしかないかと観念し、思い出したように欠伸をしつつ歩き、靴を履いているミハルに近付く。
「曖希ちゃん、はよ!」
「う~っす」
「テンション低いな! もっと元気出してこうぜ!? ほらめっちゃ天気いいよ!? 見て見て空! 青い!!」
「いや無理、到底テンション上がんねえから。俺を元気にしたいなら休ませて。今は空の青さすら俺を苦しめる……。早く眠らせてくれ……」
「中二病かよ。しっかりしろ」
後に続き、靴を履きながら言葉を返すも覇気は無く、朝からすでに精魂尽き果てている。
思わぬ昂りに振り回され、こんなんでどうテンション上げていけと、気のない返事をしながらのろのろと外に出れば、暖かな陽射しが包み込んでくる。
ミハルに肩を叩かれ、そうして閉まる扉と、鍵を掛けている音が聞こえ、いよいよ逃げ場が失われる。
言葉通り天気は良く、囀りを耳にすれば爽やかな風が頬を撫でていき、ほんの少しだけ心地好くなる。
「はよっす」
ぼんやりと辺りを眺めていると、傍らから声を掛けられて顔を向け、もう一人の見慣れた青年と視線を交わらせる。
「おう、朝から大変だったな。コイツのお守 り」
「ちょいちょいちょい、お守りって何! 誰! 俺!? まさか!!」
「そりゃそうだろ。他に誰もいねえんだから」
「いやいやいや寧ろ俺が! 先輩として! コイツをここまで連れてきてやったっつうかいつも勝手に居るっていうか何で気付いたら居るんだろうっていうか!」
「あ~、はいはい。うっせえから耳元で騒ぐなよ。うぜえから」
「ちょっと聞いて!? ちゃんと聞いて!? 曖ちゃん!? いや待ってうぜえって何うぜえって! 聞き捨てならねえな!」
「言葉通りだろ」
「ひどい! まあでも……、照れてるだけだもんな。俺ちゃんと分かってるよ!」
「ハァ?」
フフンと鼻を鳴らす悪友を睨み付けるも効果はなく、いつも通りの和やかな光景が広がっている。
どす、と拳を叩き入れれば痛がられ、笑みを湛えて肩を並べる。
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