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01探偵社前

 七月七日、武装探偵社前―― 「チッ、真逆この俺が直接出向く事に成るとはな」  太宰が姿を消した――「そろそろ七夕だね」――彼の日から。  彼奴が俺からの呼び出しに応じない訳が無ェ。何時だって呼んでも居ねェのに勝手に俺の前に現れて、好き勝手な事をして満足すりゃあ帰ってく。  そんな彼奴がこの数日姿を見せないどころか俺から連絡して遣っても返事は無ェ。心当たりが在るとすれば先日の七夕が如何のって事位だ。  俺の事が厭になった?其れなら其れで構わない。俺も元々手前の事なんか大嫌いだからな。だけどよ―― 「黙って姿消すにも限度ってモンがあんだろ。なァ太宰よ――二度目は無ェぞ」 「――あ」  無意味に楼閣前で立ち尽くしてりゃ何処ぞから戻って来たらしい鏡花に目を付けられた。両手にでけェ買い物袋持って――隣に居る白いのは人虎、中島敦か?太宰がやけに執心しているとか云う…… 「中原、中也……何故貴方が此処に……?」  昔見た時より幾らか力は抜けてるみてェだが、俺を見て緊張を隠せねェのは相変わらずだな。人虎は人虎でハッとしたみてェで鏡花を庇うみてェに片腕出して俺を睨み付けてる。 「――勘違いすんな。手前らと如何こうする心算は無ェよ」  帽子を深く被り直し溜息混じりに吐いてみても奴らの警戒は一向に解ける様子が無ェ。――他の奴らを喚ばれると面倒だな。 「――おい、太宰は居るか?」 「え、太宰……さん?」  連絡寄越さ無くても仕事位には来てんだろ。まァ彼奴は昔っからやれ入水だとかで任務にすらまともに出て来なかった日の方が多い位だが。 「太宰さん、最近探偵社にも現れないんですよね……」 「……何だと?」 「国木田さんは放って置けと云うんですけど」  ……オイオイ一寸待てよ。こりゃア失踪って云うんじゃねェのか?此奴等も随分慣れちまった様だが。何だ、こんなに厭な予感がするのは俺だけなのか?  其れ迄黙って人虎の後ろから俺を睨み付けて居るだけだった鏡花が不意に口を開く。 「……貴方達が……亦、捉えた……」 「此方じゃねェよ。もし亦太宰の木偶を捉えてようモンなら、俺に真っ先に連絡が入る筈だ」  其の可能性を考えて無かった訳じゃねェ。何処かでヘマして掴まってねェか、何処かで水揚げされてねェか考え無かった訳じゃない。  唯何処にも太宰は『居ない』んだ。組織の網に隠れ切れる訳が無ェ。――確かに彼奴は過去の経歴を洗浄する為に二年間逃げ仰せた。だけどこんなに突然か?其の前触れが何処に在った?  ――『そろそろ七夕だね』  七夕?其れが如何した。織姫と彦星なんざ浪漫的な事を云いやがる手前じゃねェだろ。 「――あの、中原、さん?」  人虎に声を掛けられて現実に引き戻された。此処に来ても無意味だったって云うのなら何時迄も長居する必要は無ェ。 「太宰が現れたら俺に連絡するように云っとけ。用件は其れだけだ」 「あっ、でも、あのっ……!」

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