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翌朝
翌朝、やけに神妙な顔付きをした国木田君の姿が在った。
「太宰、俺は――俺で佳いのか、本当に……」
「幸せに、して呉れるのだろう?」
情事の後、煙草を吸うのは中也の癖だったけれど、其れが何時の間にか私にも移って仕舞った様だ。紫煙を吐き出した口で、唇を重ねると彼は途端に厭な顔をする。非喫煙者には無理も無い事だ。
視界の隅に、見慣れた色が入って来た。其れは私の端末で、昨夜国木田君と部屋に入った時から裏返して置いた儘だった物。其の灯りは、常日頃待ち詫びて居た物で思考を現実に引き戻すには充分過ぎる程だった。
「――太宰?」
一体何れが現実なのか。此の点滅が現実か、国木田君の声が現実なのか。赤い点滅を繰り返す端末を手に取り其の通知画面を確認した時、声に成らない声が出て仕舞った。
「――ッ!!」
「おい、だざ……」
如何しよう。国木田君が気にして仕舞う。早く、早く何か言葉を返さなければ。画面一杯に並ぶ其れは凡て中也からの着信を告げる物だった。時間としては丁度国木田君と睦み合って居たであろう昨夜遅く。何度も、何度も。屹度連絡なんて来ないだろうと思っていた。突き放したのは彼の方だったのだから。
沢山の着信通知の中、一つ丈書面の通知が在る事に気付いた。差出人は勿論中也。
嗚呼、莫迦なのは一層私の方だったのだと。君がどれ程想って呉れて居たのかは私が一番知って居た筈なのに。
沢山の着信とたった一通の非礼を詫びる書面。嗚呼君は――一晩中ずっと私からの連絡を待って居たのだと。
そして或る時刻から入って居ない着信履歴。
――然うか、君は訊いて仕舞ったのか。彼の薄い玄関扉の向こうから、私が君で無い人の名前を呼ぶ処を。
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