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「なんか……色々と……」
「別に俺に謝るようなことはしてないよ?あおいは」
優しくそう言われて、俺は思わず胸がきゅうんとなって、シンジに繋がれた手をギュッと握り返した。
メチャクチャかっこいいのに、その上優しいとかずるい……。
でもきっとシンジは、俺だけじゃなくてみんなに優しいんだろうなと思った。分かっていたことなのに、なんだろうこのモヤモヤは。
「まだ恐い?」
「そりゃあ、……」
手を繋いだからといってこのホラーハウスの恐さが薄れるわけじゃない。多少の安心感は生まれるけど。
「ォオォォオ……」
「んぎゃーッッ!!こっち来んなーッ!!」
血まみれの医者がありえない体勢で迫ってくるぅ!!なんか首がプランプランしてるんだけどアレって本当にメイクなのか!?マジで死んでない!?どうなってんの首のとこ!!
「あおい、嬉しいけどちょっと腕が痛い……」
ハッ!
俺は手を繋ぐどころか、シンジの右腕に思い切りしがみついていた。
「うわ、ごめ……「オォオォオ……」んぎゃあああああ!!!」
「ちょッあおい痛い痛い!腕が抜ける!」
もーやだもーやだ!!俺もリタイヤしたいぃぃ!!!
「あおい、落ちつけって。あの人の本当の首は白衣の中だから。よく見てみ」
「よく見れるかーッッ!こわいぃぃ!!」
「じゃあもうちょっと早歩きしような、歩ける?」
「あ、あるけるぅ……」
やばい、なんか涙出てるし俺。情けないし、かっこわるい……こんなところでカッコ付けようなんて思ってないけど!!
「いやあここの美術さんは凄いなー、今年のハロウィン特集は俺もゾンビメイクしてもらおっかな。RIONとセットにしてさー」
「え、こ、今年はオオカミ男のコスプレしないの……?俺、何気に楽しみにしてたんだけど」
気を紛らわすように、今は関係ない会話を交わした。シンジと理音くんのレギュラーファッション誌の、去年のハロウィン特集ではシンジがオオカミ男で理音くんが魔女のコスプレをしていた。魔女っていうか……魔女っ子?
「え、去年の見てくれてたのか?」
「だっ……俺はアンタのファンだって最初に言ったじゃん!」
「そっかぁ」
シンジが嬉しそうな声を出したけど、薄暗いせいで表情はあまり見えなかった。その顔はちょっとだけ見たかったな……なんて。
それにしても、オバケ役がいなくてもぼろぼろのセットとか、血のついたメスとか、『手術中』って光ってる照明とか、もう全てが恐いんだけど俺は……。
「あおいはRIONと俺、どっちの方がよりファンなの?」
「服を参考にするのはRIONだけど、単体で見るならあんたのほうが好き。好きな服の系統が違うから全然参考にはならないけど」
恐いから、いつものようにとりつくろう余裕が今の俺には全然なくって、素直にシンジの質問に早口で答えてしまう。コアラのように、シンジの腕にしがみついたまま。
嬉しそうにニヤニヤされてるけど、もうどうでもいい。ていうか温度差交換しろォ!!
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