ネクタイを強く引き、〈俺〉は唇を重ねてきた。その強引だけど甘い口づけは、オレから抵抗という衣を全てはがし、従順な裸体をさらされる。 　もっと強く突いてほしいから、オレからも舌を吸って“おねだり”をする。それなのに〈俺〉はじわじわと焦らしながら、腰を動かすことはせず、中でサオだけを動かす。 「あ…、や、やだ…もっと」 　外からは官能的なキス、中からは焦らす動きで、前立腺を直撃する。オレがしてほしいことを知っている癖に…。 「くっ…、はあっ」 　射精もしないのに、ズンと下半身に来るこの感覚。ドライオーガズムだ。それは何度も訪れる。あいつがその間、ずっと涼しい顔をして一度も射精していないのが悔しいけど。 　三度目のドライオーガズムの後、いきなり、ペニスを握られた。サオを強く擦られるが、先走りでトロトロに濡れているため痛くない。このまま射精したい。ドライオーガズムだけじゃなくて―― 「は…あ…、もっと…」 「もっと――どうしてほしい？」 「もっと…いじめてっ」 　突然、〈俺〉は手の動きを止める。後ろ手に縛られていた両手が自由になる。〈俺〉がネクタイをほどいたんだ。手首をつかまれ、指先をオレの濡れた先端に導かれた。 「サオを一切触るな。ここだけ弄ってイけ」 　ええっ?!　ここだけで？ 　言われたとおり、オレは指先でクルクルと先端を撫でる。少し爪を立てて鈴口を弄る。五本の指全部を使って先端をつまんで揉む。 「あっ…」 　あいつに見られてるから、余計に恥ずかしい。それなのにオレはもう、絶頂を迎えようとしている。 「そのうち、後ろだけでイけるように調教してやる。メス馬らしく…な」 めちゃくちゃに擦ってほしいのに。そうか、オレが口走った“いじめて”を実行しているんだ。 「ほら、いっぱいいやらしい汁が出て、俺のシャツを汚してるぞ」 はしたないな、とまた尻を叩かれた。 「うっ…！　…はぁ…」 　尻を叩かれた拍子に射精してしまい、〈俺〉のシャツを余計に汚してしまった。 同時に、オレの中でもあいつが弾けた感触がある。早く抜かないと、穴から垂れてくる白いもので、スラックスまで汚してしまう。 　けど、そんなことはお構いなしに、〈俺〉はオレを抱き寄せた。優しいキス。ねっとりと絡む舌は、じゃれあう子猫のようで。 　長いキスはいつまでも続く。まるで、久しぶりの逢瀬の恋人が今から体を重ねる、といったふうに。 　オレはいつの間にか首筋に腕を回し、唇をむさぼっていた。歯が当たる。角度を変えると、鼻がぶつかる。 　そのうち、あいつの方から唇を離すけど、今度は舌を絡めないキスを何度もしてくる。鼻の頭や頬、耳たぶにも。耳たぶを甘噛みし、舌をねじこむ。 「んん…」 「なんだ？　また興奮してきたか？」 　体は疲れ果てたけど、このまま第二戦目もいいかな、なんて思ってしまう。 　でもオレは、アルコールと疲れのせいか、知らないうちに眠っていた。〈俺〉がいなくなっていたことにも気づかず―― 　何となく気だるい、土曜日の朝。〈俺〉はいない。別におはようのキスをしたいとか、いっしょに朝食を…なんてのは考えないけど、心にポッカリ穴が開いた気分。 　次はいつ現れるんだろう。前回はいつだっけ。その期間で考えると―― ……。 　よそう。なんだか期待してるみたいじゃないか。出て来ないなら来ないで、体は充分に休まる、うん。 　今日は休みだし、朝食は『ロイド』で食べればいい。水だけ飲もうか、と冷蔵庫を開けてみて、腰を抜かしそうになった。 「何だよ、このザクロの山?!」 　そこは一面の赤。ザクロがぎっしり詰まっていた。オレはどこのザクロ農家だ。今から出荷するのか？ 《それだけあれば、三ヶ月はもつだろう》 〈俺〉の声だ。当たりを見回すが、姿は無い。 「三ヶ月って…一日に何個のペースなんだよ！」 《朝昼晩と一個ずつ…ってとこだな》 　もう、ツッコむ気力も無い。真っ赤な冷蔵庫の前で、オレはへたりこんでしまった。 《食べる度に姿を見せてやらないと、お前は我慢できなくて自分で慰めるからな。次からは必ず出て来てやる》 　朝昼晩、毎日〈俺〉にもてあそばれる訳にはいかない。絶対、毎日食うもんか！ 　…けど、こんなに冷蔵庫を占領されたら困る。結局はこまめに食べるしかないのか。 《ザクロだけじゃ物足りないだろうお前に、とっておきを用意しておいた。グレナデンシロップだ》 「へっ?!」 　ドアポケットを見ると、赤い液体が入った外国語のラベルのボトルが、ずらりと並んでいる。何の嫌がらせだ！ 「こんなもの、どうすんだよ。オレは使い道知らないぞ」 《そうだな…この次に教えてやる。お前の体にたっぷり塗るのも、美味だろうな》 　そう言ったきり、あいつの声は聞こえなくなった。 　体にたっぷり塗る……。シロップをアソコに垂らされて、フェラチオされているところを想像してしまった。 　駄目だ！　あいつに毒されている！ 　変な妄想を振り払おうとしたが、下半身は遅い朝勃ちをしてしまった。モーニング食べに行く前に、抜いておくか…。 ――完――