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第2話

オンシジウム ―――その花言葉は『蕾のままでいて、清楚、可憐』 「何も…覚えていないのかい?」 「はい…」 海堂薫は俯いたまま、そう答えた。 海堂の後ろには、母親の穂摘と、弟の葉末が寄り添いながら、心配そうに海堂を見ていた。 海堂本人に何が起り、このような事が起こったのかは誰も分からない。 ただ一人、桃城武を除いては…… 「一体…海堂と何があったんだ?桃城。」 部活終了後の部室に残っていたのは桃城、大石、不二、乾の四人だけだった。 桃城は大石、不二、乾の座るプラスチック製のベンチに向かって、俯きながら立っていた。 「また…喧嘩をしたのか?」 大石がそう尋ねるが、桃城はただ頭を垂れたまま、何も答えようとはしなかった。 「前にもあったよね?君が海堂との待ち合わせ時間に遅れて、そのまま海堂が怒ってしまったという事が…」 不二は桃城の顔を覗き込むようにして下から見上げる。 「……お前は病院に行っていないから何も知らないかもしれないが…今、海堂は軽い記憶喪失の状態にあるんだぞ?」 乾がそう言うと、桃城はハッとしたように顔を上げ、何かを言いたそうに口を開いた。 「乾、それは……」 大石が乾を制止させようと身を乗り出す。 その時、不二は桃城の顔色が今までに見た事が無い程青ざめているのに気付いた。 「…知らなかったのか?」 「ホント……なんスか?」 誰も、何も答えなかった。 しかし、その無言の返答が肯定の意味を表している事に、桃城は気付いた。 「……俺…が…」 頭の中で何かがぐるぐると回ったまま、桃城はふらりと動くと、ロッカーから自分のテニスバッグを持ち出す。 「何があったのか…言ってくれないのか?」 「先輩達には…関係の無い事っス……」 そのまま桃城が戸口に向かおうとするのを見て、大石は即座に立ち上がるが、不二がそれを止める。 「桃、海堂は今面会謝絶だよ?」 どさっ… テニスバッグが地面に落ちる。 それとどちらが早いか、桃城の両足から力が抜け、桃城はその場にへたれ込む。 「…事と次第によっては…この事を手塚に報告しなければいけなくなる…」 両の眉尻を下げ、今にも泣き出しそうな顔で桃城は大石に視線を向けた。 不二の制止を振り切って、大石は立ち上がると桃城に近付き、目線を合わせるように座り込むと、桃城の肩に手を乗せる。 「話してくれ……桃城。」

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