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第13話

 「言っただろう?家には人を泊まらせるようなセットは何一つないんだ。バスローブや寝具さえもね。これから買いに行くのは、君専用のお泊まりセットだよ。」  「……でも、」  「まだ何か不満かな?君がどうしても嫌だと言うのなら、車に戻ろう。家まで送ってあげるよ。そうじゃないのなら、少しでも俺と居たいと思ってくれているのなら、この手を取って。ただ、このまま帰ると言うのなら、俺とはもうこれっきりだ。」  「……、」  右手を差し出して見つめる隆明さんの顔は、少し強ばっているようにも見える。 選択肢を提示して俺に選ばせるなんて、狡い。それに、俺が帰ると言ったらもう隆明さんとは会えないだなんて。そんなの、答えは決まってるじゃないか。  「隆明さん、ズルいです……」  「良かった。帰るって言われなくて。」  っほ、とため息をついた隆明さんは、嬉しそうな声色だった。  「だって、知り合ったばかりなのに、もう会えないなんて……」  「うん。ズルくてごめんね。でも、中途半端は嫌なんだ。君にその気がないのなら、もう会わない方がお互いの為だからね。」  色んな感情が心の内で綯い交ぜになって泣き出しそうな俺を、隆明さんは黙って抱き締めてくれた。  駐車場で何してんだ、なんで俺は泣きそうになってんだ、なんで俺は、帰ると言う選択を取らなかったのか。でも、優しく包んでくれるこの温もりを、今はどうしても、手放したくなかった。

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