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第51話

 「そういえばさぁ、例の7年片思いした子とは、まだ会ってるの?」  「へ?」  週のはじめ、クローゼットに向かってシャツやスーツを選んでいると、既にピシっとスーツに着替えた隆明さんが後ろから声を掛けてきた。  「うーん…部署が違うから、夜食べに行こう、とか約束が無ければあんまり会いませんね〜。」  「そうなんだ?」  「あ、でも、隆明さんと付き合う前は、結構相談とか乗って貰うのに、飲みに行ったりしてました。」  絶対振られる、嫌われたくないと零しては厳しい言葉を投げられたっけ。なんだかそれも遠い昔のようで、懐かしいなぁ。  ついこの前会った顔を思い浮かべていると、後ろから低く短い返事が聞こえた。  「へぇ……」  「隆明さん…?どうかしたんですか?」  「いや、何でもないよ。気にしないで。」  なんだろう、心做しか悲しそうな顔に見えないこともない。  「太一くん、遅刻するよ、着替えないの?」  「あ…そうですね、ちゃんとしないと、」  「じゃあ、俺は先に出るね。」  「あ、はい!いってらっしゃい!」  「うん。行ってきます。」  変だ……隆明さんが変だ!  声色こそは穏やかで普段と変わらないけど、いつもはしてくれる行ってきますのデコチューがなかったし、まだネクタイも結んでもらってない。  「やっぱり、マサの事気にしてる…?嫉妬?やきもち?……自惚れじゃ、ないよね………」  いつもより温もりのない朝となり、寂しい気持ちと、初めて向けられる嫉妬に、胸がきゅっとなるのを感じた。  「今日、帰ってきたら話そう。」

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