65 / 132

第52話

 ほっこりした気持ちで電車に揺られ、会社に着くとまず営業部に向かった。  「マサ!おはよう、ちょっといいか?」  「太一じゃん、朝から珍しいな。喫煙室でもいいか?」  「おう。」  俺がマサに会いに来た理由は、あれだけ相談しておいて、未だに“無事付き合えました”と報告が出来ていないから。隆明さんと付き合えたという事実が、頭からマサの存在を遠ざけていたけれど、今朝隆明さんから聞かれた事によって、再び思い起こされた。  「この前から相談してたじゃん、まだ結果報告してなかったな〜って。」  「あ〜、例のセフレから昇格出来ないって言うアレね。え、なに、告白したわけ?玉砕?」  「失礼なっ!無事付き合えましたぁ〜」  いつものノリだ。学生時代を思い出させる空気感は、懐かしいし楽しい。しかし、片想いをしていた頃よりも、真っ直ぐ素直に目を見られるようになり、思ったより隆明さんとは似てないな、と思う余裕さえ出来た。  「マサ、ありがとな……」  「いやいや、相談乗ったくらいで礼とか要らねぇから、」  「うんん、それでもありがとう。」  改めて“俺は隆明さんが好きなんだ”と再確認し、スッキリした気持ちで喫煙室を去る。  後ろからは、素直すぎて気持ちわりぃ…と呟く声が聞こえた気がした。

ともだちにシェアしよう!