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第1話 胎内記憶
ぷかぷかと浮いている。オレンジ色っぽい光の中。誰かの声が聞こえる。
それが都倉和樹が持つ一番古い記憶だ。「胎内記憶」と呼ばれるものだと知ったのは、十歳の時だった。幽体離脱だのドッペルゲンガーだのといったオカルトがかった現象を、こども向けにおもしろおかしく解説した本の一節だった。そして、「世の中には、このような胎内記憶を持っている人もいます」とわざわざ記載されていたことにより、みんながみんな胎内記憶があるわけではないことも同時に知ったのだった。
勉強にしろスポーツにしろ何かと「ふつう」だった和樹は、自分にも「他人と違う何か」があったことに驚き、ちょっとばかり嬉しくもあったのだが、友達に自慢しようとも母をびっくりさせてやろうとも思わなかった。その程度の胎内記憶があると伝えたところで、だから何だと返されるのが落ちだ。バック転ができるほうがよほど受けが良いに違いなかった。多少なりとも人より秀でていることと言えば水泳で、小一から始めたスイミング教室では多少活躍していた。高校生になった今も水泳部に所属している。とはいえ、大きな大会で勝てるほどの実力はない。ただ、泳ぐことは習いたての頃から今に至るまで苦に感じたことはない。水の中はいつでも「ぷかぷかと浮いている」、あの心地よいイメージにつながっている気がした。
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