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最終話 ずっと、ふたり。

 和樹がなにげなく視線を投げた先に、いつかのあのファイルが見えた。「そうだ。あのイラストのファイル、くれよ。」 「ホントに要る?」 「要るよ。」 「そっか。」涼矢は照れたように笑った。初めてイラストを褒めた時と、同じ表情だった。  和樹は服も着ずに起き上がり、机に近づき、ファイルを手に取った。「涼矢みたいだって思った。」 「え?」  例の「海の中のような、星空のような」イラストのページを開いた。「これ。最初に見た時。なんか、パッと見は地味だけど、よく見ると、光があって、きれいな色で。」それから涼矢を振り返り「涼矢みたいだなって、思った。」と、もう一度言い、微笑んだ。「だからさ、これ持って行けば、涼矢が近くにいるみたいで、淋しくないかも。」  涼矢もベッドから降りて、和樹のところに行った。向き合うと、ほぼ同じ高さで視線がからむ。口づけるのに屈む必要もない。涼矢はまっすぐ顔を近づけ、和樹と唇を重ねた。和樹が涼矢を抱きしめて、涼矢も和樹の背中に腕を回した。 「……やっぱ、本物が近くにいないと、淋しいかな。」和樹が苦笑した。 「会いに行くよ。」 「ああ。」 「浮気するなよ。」 「努力する。」涼矢は和樹の耳たぶを噛んだ。「いてっ。」和樹は思い出した。かつて綾乃が、涼矢に睨まれたと言っていたことを。涼矢はこう見えて嫉妬深いのかもしれない。「嘘だよ、浮気なんかしないって。」 「信じらんね。」 「だったら、好きって言って。」 「おまえ、いつもそれだな。」 「ノー、オマエ。セイ、カズキ。」  涼矢は回した腕に力を込めて、和樹をきつく抱きしめた。そして、和樹の耳元で囁く。「和樹。好きだよ。大好き。」 「それが聞ける限り、俺はおまえが好きだよ、涼矢。」 「じゃあ、ずっとだ。」  和樹は笑って、涼矢にまた、キスをした。 (完) 第二部 「10days」 に続きます…

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