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愛しさのかたち10

(言いにくそうにしているところを見ると、あまり口にしたくない内容だろうな。そうやって無理してひとりで抱え込むから、不安になるというのに) 「……愛菜と毎日LINEでやり取りしてることは、おまえも知ってるだろう?」 「はい。小学生になった愛菜ちゃんは、いろいろ悩みも出る頃でしょうねぇ。小林さんが父親らしいアドバイスができているのか、若干心配してます」  小林の腕の中で竜馬が笑いながら告げたら、頭上で盛大なため息をつく。 「おまえなぁ。クラスで仲のいい友達ができたことの報告とかちゃんと受けてるし、今のところ悩みはないみたいだ。ただ……」 「ただ?」  竜馬が訊ねたというのに、小林はなかなか口を割らなかった。ふたたび大きなため息を吐き出してから、忌々しそうに告げる。 「おまえに逢ってからというもの、『竜馬はなにが好きなの?』とか『竜馬は今日なにしてた?』なんて、俺のことよりもおまえのことばかり聞いてくるんだ」 「そうでしたか」 「そうでしたかじゃねぇよ、穏やかじゃないだろ!」  小林が耳元でぎゃんぎゃん喚いたせいで、竜馬は思わず耳を塞いでしまった。塞いだところで、鼓膜に小林の声が張りついているせいで、不快感に眉根を寄せながら顔をあげる。  嫉妬に狂っている小林の視線とかち合い、言いかけていたセリフを思わず飲み込んだ。 「くそっ、同じDNAのせいで、竜馬のことが好きになるなんて……」 「すべてが愛菜ちゃんと同じじゃないでしょ。いまさらなにを言ってるんだか。俺の好きな人は誰ですか?」  竜馬は両耳を塞いでいた手で小林の広い背中に腕を回し、ぎゅっと抱きついた。 「……俺」 「それだけじゃダメなんですか?」 「駄目じゃない。駄目じゃないけど、いつか愛菜に付き合ってることを喋ったときに、いろんな意味で傷つくのが怖いんだ」  ところどころ掠れた声で胸の内を晒した小林に、よくできましたという感じで背中を撫で擦った竜馬。宥めるように背中に触れながら「俺はね、心一郎さん」と静かに言の葉を告げる。 「貴方と付き合うと決めたときから、いろんな覚悟を決めました」 「竜馬?」 「絶対にこの人を手放したくないと思ったからこそ、どんなつらいことでも乗り越えなきゃいけない強さを持たなきゃって」 「あ……」 「ふたりで一緒に乗り越えていきませんか? つらくなった分だけ、俺が心一郎さんをしっかり支えます」  きっぱり言いきった竜馬を、小林はまじまじと見つめた。自分に愛情を込めて視線を注ぐ恋人が、とても頼もしく目に映る。 「まいったな……。これじゃあどっちが年上か、わかったもんじゃない」 「心一郎さんは最初から困った人でしたからね。俺が支えなきゃって。ちなみにそろそろ朝礼の時間です」  ふたりきりの時間も掌握してコントロールする竜馬から小林は腕を放して、利き手を差し出した。 「竜馬、朝礼に間に合うように俺を引っ張っていってくれ!」  ここに来たときとは真逆の明るい声で強請った小林に、竜馬は喜んで小林の利き手を掴み寄せたのちに、強引という感じで引っ張りながら倉庫を抜け出した。どんな困難な未来が待ち構えていてもふたりで突破してやるぞという勢いのようなそれに、小林の憂鬱が晴れていったのだった。

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