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愛しさのかたち9
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母親に無断で小林に逢ったこともあり、もうしばらく来ないと思っていた。それなのに1週間後にふたたび小林の自宅に愛菜が来ることを知り、竜馬は驚きを隠せなかった。
「愛菜のヤツ、どうしても竜馬と一緒にハンバーグが作りたいんだってよ!」
いつものように会社に出勤後、事務所で顔なじみに挨拶する竜馬の腕を掴んだ小林が、いつものごとく荷物が置かれている倉庫に引っ張った。挨拶をすっ飛ばして告げられた言葉に、竜馬は困惑するしかない。
「小林さん、愛菜ちゃんに逢いたくないんですか?」
「愛娘に逢いたくない父親がいるなら、見てみたいくらいだ」
「言葉と態度が裏腹すぎて、どうしていいかわからないですよ」
「……キスしてくれたら機嫌が直る」
唇を尖らせたまま告げられたセリフに、竜馬は笑いながら目の前にある頬にキスをした。
「そこじゃない。ここ!」
自分の唇に指を差し、小さな子どものように駄々をこねる小林に、肩を揺すってプッと吹き出す。
「竜馬、イジワルするな」
「小林さんこそ、朝からどうしてそんなに不機嫌になれるんですか。そんな態度でいたら、周りの人が気を遣うでしょ」
「だってよ……」
「笑った心一郎さんじゃないと、キスしてあげません」
キスしない宣言をした竜馬は、両手の人差し指を使って自分の唇の前にバツマークを作り、小林が笑うのを待った。
「このタイミングで下の名前を呼ぶなんて、卑怯だぞ竜馬」
「…………」
「おかしくないのに笑えなんて。ううっ」
悔しそうに顔を歪ませていた小林だったが、なんとか作り笑いを浮かべて、竜馬を見下ろす。引きつり笑いに近いそれを目の当たりにして、竜馬はバツマークを作っていた人差し指を小林の目尻にあてがい、ぐいっと引き下げた。
「なっ、なにをするんだ?」
「これくらいしなきゃ、笑顔にならないんですよ。小林さんの場合」
人差し指をそのままに、小林の唇に優しくキスをした。触れるだけのキスをして顔を離した途端に、押しつけられる唇。まだ足りないと言わんばかりのそれに、竜馬は抗えなかった。
「んぅっ…ぁあっ!」
鼻から抜けるような声を出したら、広い倉庫に声が響き渡り、恥ずかしさで竜馬の頬が熱くなる。慌てて小林の躰を両手で押し出すと、唇がやっと解放された。
「小林さ…んっ、朝からそんなに求めないでください。情緒不安定にもほどがあります」
「誰が俺を情緒不安定にさせてると思う? おまえだろ。イジワルばかりするからだ」
竜馬の苦情もなんのその。小林は竜馬の腰を掴んで、その躰をぎゅっと抱きしめ、愛おしそうに頬擦りする。
「小林さん、いったいなにがあったんですか?」
「うっ、な、なんていうか、その……」
「朝礼がはじまる前に説明できなきゃ、不安を抱えた状態で仕事をする羽目になりますよ」
小林に抱かれた状態だったが、腕時計でこっそり時間を確認した竜馬は、小さなため息をついた。
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