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愛しさのかたち9

***  母親に無断で小林に逢ったこともあり、もうしばらく来ないと思っていた。それなのに1週間後にふたたび小林の自宅に愛菜が来ることを知り、竜馬は驚きを隠せなかった。 「愛菜のヤツ、どうしても竜馬と一緒にハンバーグが作りたいんだってよ!」  いつものように会社に出勤後、事務所で顔なじみに挨拶する竜馬の腕を掴んだ小林が、いつものごとく荷物が置かれている倉庫に引っ張った。挨拶をすっ飛ばして告げられた言葉に、竜馬は困惑するしかない。 「小林さん、愛菜ちゃんに逢いたくないんですか?」 「愛娘に逢いたくない父親がいるなら、見てみたいくらいだ」 「言葉と態度が裏腹すぎて、どうしていいかわからないですよ」 「……キスしてくれたら機嫌が直る」  唇を尖らせたまま告げられたセリフに、竜馬は笑いながら目の前にある頬にキスをした。 「そこじゃない。ここ!」  自分の唇に指を差し、小さな子どものように駄々をこねる小林に、肩を揺すってプッと吹き出す。 「竜馬、イジワルするな」 「小林さんこそ、朝からどうしてそんなに不機嫌になれるんですか。そんな態度でいたら、周りの人が気を遣うでしょ」 「だってよ……」 「笑った心一郎さんじゃないと、キスしてあげません」  キスしない宣言をした竜馬は、両手の人差し指を使って自分の唇の前にバツマークを作り、小林が笑うのを待った。 「このタイミングで下の名前を呼ぶなんて、卑怯だぞ竜馬」 「…………」 「おかしくないのに笑えなんて。ううっ」  悔しそうに顔を歪ませていた小林だったが、なんとか作り笑いを浮かべて、竜馬を見下ろす。引きつり笑いに近いそれを目の当たりにして、竜馬はバツマークを作っていた人差し指を小林の目尻にあてがい、ぐいっと引き下げた。 「なっ、なにをするんだ?」 「これくらいしなきゃ、笑顔にならないんですよ。小林さんの場合」  人差し指をそのままに、小林の唇に優しくキスをした。触れるだけのキスをして顔を離した途端に、押しつけられる唇。まだ足りないと言わんばかりのそれに、竜馬は抗えなかった。 「んぅっ…ぁあっ!」  鼻から抜けるような声を出したら、広い倉庫に声が響き渡り、恥ずかしさで竜馬の頬が熱くなる。慌てて小林の躰を両手で押し出すと、唇がやっと解放された。 「小林さ…んっ、朝からそんなに求めないでください。情緒不安定にもほどがあります」 「誰が俺を情緒不安定にさせてると思う? おまえだろ。イジワルばかりするからだ」  竜馬の苦情もなんのその。小林は竜馬の腰を掴んで、その躰をぎゅっと抱きしめ、愛おしそうに頬擦りする。 「小林さん、いったいなにがあったんですか?」 「うっ、な、なんていうか、その……」 「朝礼がはじまる前に説明できなきゃ、不安を抱えた状態で仕事をする羽目になりますよ」  小林に抱かれた状態だったが、腕時計でこっそり時間を確認した竜馬は、小さなため息をついた。

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