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第12話
あれは…ナイフ?
まずい、すぐに向かわなくては!
それまで持ちこたえてくれよ、頼むから!
だが俺の期待とは裏腹に、ナイフを向けられた義弟は、相変わらず訳のわからないことをわめいているようだ。
義弟のやかましい声だけが微かに届く。
「ナッ、ナイフ!?太陽、太陽は無事ですか!」
「「ナイフだなんて冗談じゃすまないよねー」」
「は……や…く………た…す……け…な……い…と」
「ナイフ持ってる相手にどう立ち向かうんですか!先輩方生徒会でしょ!何とかしてくださいよ!」
走って移動するにもこいつらが邪魔だ。
ナイフを向けている少年は焦らず少しずつ義弟に距離を詰めている。
焦ってないなら確実に刺す気だ。
これはヤバい、間に合わなかったら大惨事だ。
悠長に階段を降りて向かう時間は残っていない。
どうする、どうすれば義弟に怪我をさせずに済む?
八方塞がり…いや、まだ打開策はある。
窓だ。
とっさに飛び降り壁をつたって減速する。
「えっ、ちょっ、バ会計!?」
「「はっ!?何やってんのー!?」」
「バ……………カ……………!……?」
「えっ、ありえないでしょ会計様!?」
三階から奴らの声が聞こえる。
俺としては大きなお世話だ。
俺は、将来的に義弟の補佐を命じられたときから、殴られながらも必死にありとあらゆる体術、剣術、武術さらにはスタントまでを学んできた。
あのときはさすがに何回か死ぬかと思ったが。
まぁ、俺が死んだところで揉み消されて終わりだっただろうが。
こんなものやらされてなんの意味があるんだと思ってたが、まさかこんなことが起こるだなんてな。
万が一義弟に大怪我を負わせれば、殺されるのは俺だ。
そう思うと、やっててよかったんだな。
そんなことを考えながら降りると、地面が間近に迫る。
そのまま体を回転させ、地面に衝突する衝撃を和らげ、ナイフを持つ少年のすぐ後ろに降り立った。
「かっ、会計様!?」
「亮!スゲーな!!今三階から飛び降りたよな!えっ、無傷じゃん!うわぁ、俺にも出来るかな!亮に出来るんだったら、俺も出来るよな!」
相変わらずうるせぇ奴。
「う~ん、太陽はやめといた方がいいんじゃないかなぁ~。」
「なんでだよ!亮が出来るんだったら俺も出来るだろ!」
「俺が心配なんだよ~。万が一怪我しちゃったらたぁ~いへ~ん。俺死んじゃ~う。」
実際、太陽が怪我をしたら俺は柏陽家にすぐさま消されるだろう、物理的に。
「分かった!亮は心配性だな!」
「太陽いい子~。で、君はいつまで太陽にナイフを向けてるつもりなの~?」
太陽を憎々しげに睨み付ける少年。
「邪魔しないでください会計様。僕は…、僕は会長様の、生徒会の皆様の目を覚まさせたいのです。そのためには柏陽太陽!お前が邪魔だぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
義弟に向けて走り出した少年の首筋へ掌底を打ち、フラついたところへ足払いをかけてから身体を地面に押さえつけナイフを取り上げる。
「物騒だね~。太陽~怪我はない~?」
「無いぞ!亮、強いんだな!」
「まぁね~」
その時、ドタドタという足音が後方から聞こえてきた。
「たっ、太陽!無事ですか!?」
「「怪我は!?怪我!傷とか無いー?」」
「太………陽……大………丈……夫……?」
「太陽!あぁ、怪我はない?ナイフなんて危険なもの向けられて怖かったね、もう大丈夫だよ。」
「なんだよ翔琉!急に抱きついて!俺は大丈夫だぞ?」
「桐谷君!太陽から離れなさい!」
「「抜け駆けはダメー!!」」
「離……れ……ろ」
「大騒ぎしてるとこ悪いケド~、風紀呼んでくれないかなぁ~。」
俺はいつまでコイツを押さえつけていればいいんだ。
結構辛いんだがこの体勢。
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