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第6話
「ママ〜、今日の夜のご飯はなーに?」
「ちーちゃんが大好きなものよ。なーんだ?」
「んーと、んーと…わからなーい!」
張り詰めていた空気が、ほのぼのとした母娘の会話によって、崩れた。人の声にビクッとしたチャラ男の腕が一瞬緩む。
男性がその隙にチャラ男の腕から逃れ、こちらへ駆け出して来た。
瞬間、彼の曲がる方とは逆方向に身を翻すと、彼は僕には気がつかず、2、3棟先のマンションに駆け込んで行った。
「くそっ!」
逃した獲物を追うかのように飛び出してきたチャラ男に、気づかないふりをして、わざとぶつかった。思ったよりもヤワだったようで、軽くぶつかったはずなのに、男性の逃げた側とは反対方向にかなり吹っ飛んでしまった。
「きゃあっ!」
先ほどの母娘連れの足元に転がり、慌てて立ち上がりながら、獲物を逃がすまいとする目がギラギラと周辺を見渡す。
「すいません、大丈夫でしたか?」
わざとゆっくり近付き、手を差し出す。その手を無視して立ち上がると、
「男が出てきただろうっ?どこへ行ったっ?」と、恫喝するように喚いた。
ちーちゃんと呼ばれていた2歳くらいの女の子が恐怖感からか泣き出した。
「うるせぇっ!!」
チャラ男がちーちゃんに向かって怒鳴ったので、ちーちゃんはますます激しく泣き出す。
さすがにこれだけの騒ぎになってしまったので、何軒かの家の窓やカーテンが開き、中からこちらを見ている人もいる。
チャラ男もそれに気がついたらしく、ちっと舌打ちをすると、そのま男性の逃げ込んだマンションとは逆の方に歩き去って行った。
「大丈夫でしたか?」
未だに泣いているちーちゃんを抱っこし、あやしている母親に話しかける。
「あ…はい。大丈夫です。ありがとうございます。」
それだけ言うと、母娘はそそくさとその場から立ち去った。
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