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第5話

「やめなさいっ!」 切迫した男性の声が聞こえた。 気になって辺りを見回すが、人影は見えない。 「いい加減にしないかっ!」 再び聞こえた声の方向に歩き出すと、マンションとマンションの間の狭い通路に2人の男性の姿が見えた。 「よく言うよ。そっちが誘って来たんじゃないか。」 「そんな事はしていない!さっさとこの手を離しなさいっ!」 僕よりも年上の男性が、20代位の明らかにチャラ男と思われる男に、両手首を頭の上で捕まれ、マンションの壁に押しつけられている。 おいおい、男同士の痴話喧嘩か?! こういうのには関わらない方がいいな、とその場から立ち去ろうとした。 「いたっ…!」 「だから動くなって言ってるじゃん。大人しくしないと…折れちゃうよ。」 聞こえてきた声と台詞に、危険な響きを感じて再びそっと通路を覗くと、チャラ男がもう一人の男性の腕を背中側に捻り上げていた。 「くっ…。」男性の顔が痛みに歪む。 「オレもあーんまりこういう事したくないんだけどさぁ。…あんた、素直じゃないんだもん。別に処女ってわけじゃないんだろ?」 そう言うと、相手の耳を舌でつーっとなぞった。 「やめっ…ん…っ!」 男性の苦悶の表情と、その声にぞわっとした何かが、僕の中を駆け抜けていった。

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