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バレンタインデート→sideT

「そーいえば、チョコレート作ってなかったな」 ホテルを出て、朝日が黄色くて眩しいなとか思いながらダラダラと歩いてると、ふと気がついたように康史が呟く。 「んァ?…………チョコとかよ、菓子メーカの戦略なんだろ?」 「まあ、そうだけどさ。いつも、トールに作ってたからさ。今年はそれどころじゃなくて思いつきもしなかったし、外にも出れなかったしさ」 ん、いつも手作りって言ってたもんな。 いつも女が好きそうなオシャレなヤツだったから、てっきりおすそわけだとばかり思ってたんだが、意外な事実だ。 「今年は両思いになれてから、はじめてだっていうのに」 はーっとため息をついて、残念がる様子がなんとも可愛いらしい。 「そうだな、去年は最悪だったしなあ」 「そうなのか」 「相変わらず、オマエは女に群がられて、そこを襲われたからなー。女とオマエ守るんで必死だったし。ナズとの約束すっぽかして、その後フラれたしなあ」 俺のつぶやきに、まゆをあげて康史は仕方ないなという顔で笑う。 「それは、最悪だったね」 「ああ…………そうだ。ちと、コンビニ寄ろうぜ」 康史の腕を引いて、近くのコンビニに入ると、かごを持って板チョコをドサリと10枚くらい中に入れる。 「トール?」 「1日遅れでも、まあ、それっぽいことしよーぜ。チョコレートざんまい祭りだ」 「昨日1日ずっとデートしたので、俺は充分だよ」 遠慮がちな康史の口調に、俺は背中をぽんと叩く。 「いろんな初めてしてこーぜってさ、俺はオマエに約束したんだ」 ついでに、ジュースやおかしをぽんぽん入れてレジに持っていき会計する。 「トール、ありがとな」 「ヤスの料理はいつもうまいから、俺も楽しみなんだよ」 レジ袋を受け取り、康史の腕を引く。 「かえんぞ、明日は卒検前の最後の教習だからな」 「頑張れよ。っても、まあ、オマエなら運転だけなら問題ねーよな」 康史は俺を見上げてにっと笑うと、家に向かって歩きはじめた。

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