367 / 405
【番外編】卒業旅行→sideT
頭の中がぼーっとしている。
口の中に詰められた海パンを噎せながら吐き出すと、康史はそれを海水で洗ってくる。
月あかりが、やけに眩しい。
全身砂まみれで汗にくっついてベタベタして気持ちわるいのに、なんだか満たされていて、フワフワしている。
「タオルもってくれば良かったけど、そんなん考える余裕なかったしな」
脚をあげてと言われて海パンをはかせてもらいながら、俺は康史の肩に腕を引っ掛けて抱き寄せる。
たしかに、ここにいるんだ、と実感する。
ここにいる、証がほしくて仕方がなくて…………。
体温がほしくて、背中へと腕を移動して力を込める。
「ン、もう。可愛い顔しないでよ。明日起きられなくなっちゃうから、今日はここまでだからね!」
康史は勘違いしているのか、宥めるように俺の頭を撫でて頬に唇をくっつける。
「…………オマエがいて、ヨかった……」
あの時見つけられて、良かった。
一瞬でも遅れたら、と、考えるだけで肝が冷える気持ちだ。
「怖かったの?震えてる」
背中を抱き返されて、素直に頷く。
オマエを失くすことが、前に俺の恐怖だと何度か伝えたから、分かってくれたようだ。
「…………大丈夫、トールがいるから。もっと優しく抱ければいいのに、ゴメン」
「イーヨ…………やさしかったら…………夢だと、間違う……」
「ちょ、と、どういう意味?」
「ひどくされる方が、ほんとのオマエだなって思うからさ。ヤス」
「認識ひでえな。こんなに愛してるのにさ」
不服そうに唇を尖らせ俺の背中を撫でる。
俺は目を閉じて、知ってると呟いて再度抱きしめ直す。
隙間から覗く月と波打ち際の泡がとてもキレイだなどが思う。
綺麗だけど、…………おっかない。
「…………海の底に、攫われちまっても、どこまでも助けにいくけどな…………たすけられないとこには、いかねーでよ」
いつか、時が過ぎて、そんなとこに連れていかれちまうかもしれねえけど。
それでも…………。
「…………バカ、いかねーよ」
ともだちにシェアしよう!