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【番外編】お出かけ→sideY【完】
気を失った東流を鎖から降ろして、肌に食いこんでいる縄を解いていく。
残ってしまった鬱血と擦過の痕が、痛々しくて思わず眉を寄せてしまう。
「マッサージしてあげれば、ちゃんと綺麗になるわよ」
串崎さんがもってきたタオルでぐったりしている東流の身体をぬぐいとる。
かなり抑えたけど、やっぱりやりすぎだったかな。
「よかった。トールが気がつくまで部屋借りていていいですか。俺じゃ、重くて運べないし」
「本当に大事なのね。まあ、この子のことがずっと好きだったものね。まさか、トラさんの息子とか思わなかったけれど」
「マスターとおじさんとは、長い知り合い?」
「このお店の前の店にいるころ、トラブルをおこした私を助けてくれたの。お仕事もくれるし、恩人だわ。もう、こんなに大きな息子さんがいるんだなってびっくりしたわ。あの人まだ、すごく若いって聞いていたし」
確かに、そんなに歳じゃなかったかな。
うちの父親の二つ下らしいから。
「40歳だと思うよ」
「奥さんは美人?」
結構突っ込むなあとは思いながらも、俺は東流に服を着せながら頷く。
「キツイけどかなり美人だね。おじさんをひょいひょい蹴飛ばすくらいには、肝の座ったひとだけど」
かなわないわねと呟いた串崎さんは、きっとおじさんに憧れていたのだろう。
おじさんの威圧感は半端ないけど、俺に甘いところとか東流に似て可愛いなって思えるくらいだ。お義父さんと呼ばれたがったりとか。
俺は東流抱きしめ直して、少し湿ったままの髪の毛をそっと撫でる。
「まあ、俺もおじさんに怒られなくてよかった。トールは可愛いから、ついついやりすぎちゃうんだよね」
「カレシ、あなたには無防備すぎるものね。普段はいろんなところにすっごい壁を張っているのに」
確かに串崎さんの言う通りだと思う。
「理想でしょ。自分にしか尻尾振らない犬は」
「そうね。かなりの狂犬みたいだけど。のどぶえに噛み付かれないようにね」
「まさか。噛み付いたりはしないよ」
「………………ッ……やす……?」
薄らと目を見開き、俺の顔を見つけると東流は、夢ごこちの表情で、ふわっとした笑みを向ける。
少なくとも、東流は絶対に俺に何かをしようなんて考えないだろう。
それは、調教とかではなく、たぶん、カレの本能だ。
「起きた?身体、大丈夫だったら、タクシーで帰ろうか」
俺らの関係は、たぶん串崎さんでもわからないだろう。
2人だけにわかる、信頼とか愛情だ。
東流は、けして、俺を傷つけない。
東流は台座から脚をおろして、まだぼんやりした顔をすると頷いて、俺の手を握り返した。
「ん。帰んぞ」
加減しているのか優しく握り返す手を、俺は強く握りしめた。
【お出かけ END】
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