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【番外編】入社式→sideT

ドライバー部門の教育係の阪口と名乗った20前後のオトコは、見た目はかなり屈強そうな身体つきをしている。周りの社員も似たり寄ったりっていう感じで、俺も含めてケンカとかしたら強いだろうなって思う。 普段ケンカばっかしてると、体つきとか動きを見るだけで、大体の相手の戦闘能力がわかる。 栗原は、康史くらいの力があるなってのはわかるが、頭でケンカする分だけ、康史のが有利かなと思う。 さっき話をしたところ、士龍の派閥のナンバー3だったらしい。親友だったからと栗原はいったが、弱そうでもない。 「へえ、長谷川は北高なんだ。進学校出て就職とか珍しいな。体育会系な仕事だが、大丈夫かあ?」 阪口さんは少し見下したような態度で、俺の顔を面白がるようにのぞきこむ。 少し身長は、俺より低い感じだが、大体178くらいか、動きは悪くは無いが、拳は強くはなさそうだ。 「あーはい。体力には自信あるっすけど。何か問題あるっすか?」 見てくれもきっちり鍛えてるし、栗原よりはガタイもいいし、わけがわからず、俺は首を捻る。 「栗原は、東高な。俺も東だから後輩だな。お前の歳だと五十嵐とか知ってるか?」 「あ、はい。かなり世話になりました」 「俺、五十嵐たちの一つ上だからさ。オマエとはすれ違いだったな」 あ、一応高校によって、なんか先輩後輩があるようなとこなんだろうな。俺の高校は、就職いなかったし体力系にくるような人はいねえし。 そういうコネがなくて、大丈夫かって意味だったかな。 「まずは中型に慣れてもらって、1年かけてから長距離増やして、大型に乗るようになるような感じだけど、運転とか平気か?長谷川は」 「バイクなら……。免許は誕生日遅かったんで、まだ取り立てっすけど」 「やっぱり、北高生はマジメ君なんだな。無免運転するタイプじゃねーよな」 やはり、阪口はなんとなくどこかバカにしたようにガハガハ笑っている。 少しカチンときた。昔なら、ガッと殴って終了だが、そうもいかない。一応、社会人だしな。 今日から社会人ともう一度頭でとなえて、親指を握り込む。 「バイクで、充分だったんで」 「見てわかると思うが、俺達は北高の連中と違ってかなり荒っぽいからな。あんまボサボサしてると、ぶん殴られるから気をつけろよ」 あー、殴られんのはヤダなあ。 殴られたら、つい殴り返してしまう。 「はあ…………、避けたり受け止めていいんすか?」 先輩の鉄拳制裁は必ず受けなさいってのは、確かに気に食わねえな。 殴り返すのは、そりゃマズイだろうけど避けたり受け止めたりなら、まあOKだよな。 「はっ?!オマエね、世間知らずだな。そんじょそこらのおぼっちゃまくんの拳とは違うんだよ。受けたり避けたりできるかよ」 と言いながら、言行一致とばかりに腕をヒュンっと振ってくるので、仕方なくパシッと軽く受け止めてやる。 威力はかなり軽い。康史のが重いパンチしてると思うくらい。 「出来ますよ。親父以外にあんま、殴られたことねぇっすから」 阪口の顔色が変わって、真っ赤になって二発目を打ってくるので、軽く首を捻ってかわす。 「阪口、やめとけやめとけ。ソイツは苗字は違うが佐倉さんの息子さんだ」 社長と名乗っていた快活な男が、一部始終を見てたらしく、笑いながらその場をいさめる。 そういや、ここは親父のコネだったよなあ。 ふっと入社の経緯をいまさら思い出す、俺も俺である。 親父の名前を聞いて、阪口はビックリした様子で俺を見返した。 親父の七光りとか、柄じゃねえよな。 俺は肩を聳やかせた。

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