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【番外編】入社式→sideT

「社長、これから、よろしくお願いします。すんません、あと、オヤジのことは、あんま……」 俺はいたって低姿勢に、社長へ頭をさげながら言う。社長も俺の顔を見て、そりゃあそうだなとつぶやき、 「いやあ、長谷川君悪かったな。こうみえて俺も昔ヤンチャしてたんでな。佐倉さんにはすごく世話になったし、俺が憧れてたんでね。ついつい君が若い頃の佐倉さんにすごく似てて、年甲斐もなく嬉しくなっちゃってな。悪かったな」 「いえ、すんません。社長の心遣いに水さしちまうようなこと言って」 ガハガハ笑う社長に他意はないようで、とりあえず安心する。 阪口さんはら俺をちらちら見ながら栗原に耳打ちしているが、すこし遠くてあんまり聞こえない。 「あー、阪口さんの世代じゃなかったでしたか、中学生だったハセガワに乗り込まれて……つぶされたの」 「あ、ああ。中学生……あったな。藤堂のオンナを中坊にとられた……とかで、その中坊リンチに拉致ったら、独りで乗り込んで藤堂を叩きのめした…………て、もしかして、あいつ?」 「うちらの世代では北高のハセガワは最強でしたよ。東のヤツらも、誰もかなわかったから」 阪口さんの視線が、チラチラとうるさく感じる。 社長は、なんやかやと俺の周りをぐるぐると気になる様子でまわっている。 「美人なお母さんは元気なのか」 「はあ、まあ。いつもうるさいくらい元気っすよ」 「まあ、力仕事は問題なさそうだけど、マナーとから覚えないとな。研修は、阪口がしてくれるから頼りにしてやってくれな」 「はい、わかりました」 社長は少し話をしてから、ようやく部屋を出ていく。 敬語を使うのは疲れるなと思いながら、社長が去っていくのを見送った。 配送伝票の取り扱い方のマニュアルを受け取り、ページをめくる。 わかりやすく図解説明がされていて、漢字すべてにルビが振られている。 サルでも分かるような作りである。 記憶力には自信があるので、さっさと中身を覚えてしまおうとページをめくる。 「なあ、長谷川は結構ケンカとかしてたタイプだったんだな」 阪口さんは、何故か急に少し打ち解けた様子で声をかけてくる。 「あ、まあ。なんか俺の顔がこええからか、絡まれるんで、仕方なくです。」 「え!?か、顔のせいじゃないと思うけど……」 栗原がおかしそうに笑いながら茶々を入れてくる。 「え、他になんか理由あんのか?歩いてるだけで、絡まれるぞ」 「ケンカしますってわオーラ?」 「マジでか。クリ。そのオーラはどうやったら消えるんだ」 そんなオーラなせいだとは、今まで知らなかった。 マジマジと栗原を見て教えてくれと詰め寄る。 「……そんなの消えねえよ。まあ、その黒髪なら、ちっとは消せてんじゃないか」 「笑顔だ。長谷川。マナーを学ぶ前に笑顔をつくれ。客がビビッてクレームきたら困るしな」 阪口さんは俺の背中をたたいて、明日から鏡の前でトレーニングするのが宿題と言われた。 笑顔、な。 社会人ってやつは、大変だなと、すでに初日なのにげっそりとした。

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