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※蝉時雨と告白 →sideT
今なら、まだ、元に戻れるかもしれない。
そんな願いで制止を口にしたが、康史は頑なに首を横に振った。
「やめねえよ。夏休みの間トールの体を俺が支配して、俺なしじゃ生きられなくしてやる。大丈夫、オマエの親には俺と旅行行くって言っといたから」
康史の考えがよくわからずに、ただ逃げなくちゃいけない気持ちでいっぱいになる。
ビニールテープを引きちぎろうと腕に力を込めるも、肌に食い込む痛みだけが増して、まったくどうにもできない。
焦れば焦るほど、それを眺める康史の表情は面白がるようなものへと変わる。
なんでだ。
何故、こいつはこんな真似をしやがる。
「……ざけンじゃね……ッ、ぶッ……殺、ス、、ぞ」
みっともなく威嚇をして喚けば、平然とした康史の表情にぶつかる。
喧嘩ばかりしている俺の後ろからついてきて、いつも一緒になんでもできた同士の康史に、俺はこんな言葉を言いたくなかった。
「怖くないよ、俺、トールを怖いと思ったことはない」
静かに語る康史が、逆に俺は怖かった。
俺は、今まで何かを怖いなんて思うことはなかった。なのに、いま、唇に震えが走るほど、怖かった。ひどく恐怖していた。
支配されることが、怖いのか。
いや、違う。
いま、俺は何にこんなに恐怖しているっていうんだ。
「…………俺が……気にいらねえなら、謝るから……ッ…も、ッ、やめてくれ………」
ペニスを弄るのを止めない康史に、身を捩って抗議の声をあげるが、聞き入れる気はないらしく指の動きを速めて顔を覗き込んだ。
俺とは違い、モデルにもスカウトされるような端正で綺麗な顔立ち。
学校の女子がファンクラブなんかを裏で立ち上げるのも知っている。
昔から綺麗で大事でたまらなくて、守ってやりてえと心から思ってきた存在。
「気に入らない所なんか無い。それが問題なんだ。トール」
「ねえなら……こんな事…………ッ…すんな、外せェ」
セミが泣いている。
康史の顔も泣き出しそうに歪んでいる。
俺にひでえことしてるのは、そっちの方なのに、何でそんな顔をするんだ。
一人暮らしなのに、性格を表すようにお洒落で片付いた部屋。
去年、康史の父親が九州に転勤になってここから離れたくないからと始めた一人暮らし。
地方で進学するのもつらいからとか、適当に理由を言っていたけれど……。
昨日から夏休みに入っていて、親ぐるみの付き合いの康史に旅行だと言われたら探さないだろう。
まだ、さっき塗られた媚薬の効果が残っているのか、触れられただけで感じてしまう。
俺の勃起したペニスからは、透明な液体が開ききった鈴口からは後から後から零れ落ちてベッドへしたたる。
康史の指は気を良くしたように、既に熱に疼いてひくつき始めたアナルに浅く埋められる。
「言っただろ、トール。俺なしじゃ生きられなくしてやる。ずっとそう思っていた」
「――ッ……ン………な………、何で…だ…ッ……、ヤス……ッ…、、、」
指の動きに吸い付くように胎内が蠢き、康史の指を飲み込んでいく。
「すげえ淫乱、まあ、たっぷり塗った薬のせいかもしれねえけどな。……何で?……ずっと、そう思ってたンだ。オマエを犯したらどんなに気持ちいいかって。ずっと前から…………見ててむかつくンだよ、それだけだ」
康史の指が奥を擦り、追い上げていく。
耳元で囁かれる言葉に、俺の中の優しい思い出ばかりが音をたてて崩れていく。
泣きたくは無いのに次から次へと涙が溢れ出る。
信じていた。
何も言わず、ついてきてくれる康史だけが俺の支えだった。
壊れていく。
ジージーとうるさく響くセミの声だけが、俺の耳に焼きついた。
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