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初恋→sideY
その日、東流は3年のリレーの選手に選ばれて居残り特訓で、たまたま俺は一人で帰り道を歩いていた。近くの小学校とはいえ歩いて十分はかかる。
思えば、東流が終わるまで待ってれば良かったのだが、長くなりそうと言っていたので、先に帰ったのだ。
そういうときに限ってなのか、狙ってなのか、上級生が俺の目の前に立ちはだかった。
「今日はぼでぃがーどいないみたいだな」
アホ面をさげて俺の目の前にいるのは、見た目からいって6年生だろう。
体も大きくてとてもかないそうにない。早く逃げないととんでもないことになるような気がする。
同級生にはそうでもないが、上級生にはよくからまれる。
だから、いつも東流が一緒に帰ってくれてるのだ。
「本当に女よりかわいい顔してるんだね」
いつものようなからかいにぐっと拳を握り締める。
ケンカの方法はいつもトールから習っていた。
だけど、5対1で体格差もある。ここは戦っても怪我するだけで意味が無い。
俺は地面を蹴って駆け出す。
一刻も早く逃げ出そう。
やばい時はできるだけ走って時間を稼げ。その分相手の体力も消耗できる。
それが東流の言い草であった。
「足の速さでかないっこないじゃん。ひだか君」
回り込まれて後ろを見ると、他にもぞろぞろとやってくる。
囲まれた。
ガクガクと膝が震えて動けない。
……助けて。こわい、よ。
「こわがっちゃってるの。かわいいね」
じりじりと寄ってくるのを見て、思わず後退し、石につまづいてしりもちをついてしまう。
動けない恐怖と、すこしづつちかづいてくる上級生におびえてしまう。
「へっへっへ、いーな、怖がってるのかわいー、ちゅーとかしちゃおっか」
「いーなー、俺もちゅーしたいぞ」
笑いながら近寄ってくる、いがぐり頭の上級生の顔がこわい。
ちゅーとかマジできもい。
やめろ。やめろ。やめろ。
ぶっちゅううううっと濡れた唇がはりつくように唇にひっつき、涙がでてくる。
きもちわる・・・い。
「テメェら、何してんだ、コラ」
ガツンガツンと人を殴る音が聞こえる。
くっついていた唇もはがれて、上級生は地面にごろんと転がっている。
「……だいじょうぶか?ヤス」
泣いている俺の腕を引いて抱き起こす東流は顔を覗き込んで背中をとんとんと叩く。
「うえええ……トールぅうう」
「泣くな。どうした?」
「ちゅーされたあ…うえええええ」
ぼろぼろと泣き喚く俺を東流は、じいーと俺を見つめてなにを思ったなかぐっと抱き寄せて、ちゅっと唇をくっつけて清めるようにぺろぺろと舐める。
優しいしぐさが気持ちいい。
「よっし、これで、しょーどく。もう大丈夫だ」
俺はあっけにとられて、涙も止まった。
なにが…だいじょうぶなんだろう…。
「おれもさ最初のちゅーだし、そしたらよ、ほら、おそろいだろ」
太陽のような笑顔で言われると、まぶしくて頷くしかなかった。
それが、俺の初恋だった。
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