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繋がるココロ →sideT

く、そッ、もう、ダメだ……ッ。 幻聴かもしれないが、ダンダンと階段を激しく登る足音が聞こえてくる。 助けて欲しい。苦しい。くる、しい。 何でも、すっから…………ッ、好きなだけ、性処理でもなんでもしては構わねーから。 こんな、なさけねえ格好で…………しぬ、のは、イヤだ。 膀胱ももう限界で、破裂しちまいそうだ。 バンッと派手に扉が開いて、けたたましく駆け寄る音と視界に影がうつりこむ。 もう、影がなんなのかすら判別できない。 「トール、ごめん!!あちいよな、大丈夫か?クーラーをオフタイマーにしてたの、忘れてた」 エアコンのリモコンを慌ててオンにする背中が微かに見え、ぼやけた視界に心配そうに焦った顔で覗き込むいつもの表情がある。 見知ったいつもの俺を心配するような…………きれ、いな顔。 なんで、そんな顔すんだ。 見殺しにするつもりだったんじゃねえのか。犯して殺そうと思うくらい憎んでんだろ。 あ、もしかしたら、これは、本物の康史で、今までのは偽物だったのかもしれない。 ……にせもんに…………だまされてた、だけだ。 「た………すけ………て……くれ」 俺は、康史に必死に救いをもとめる。 ここで跳ね除けられたら、また、辛くて仕方ないはずなのに。 膀胱もパンパンで、息苦しくて死にそうだ。 「おい…………、トール、大丈夫か!」 俺の反応に顔が歪み、康史は必死で抱き起こそうとする。 「……ッっあ、や…す…………ゆら…すんじゃねぇ……ッ」 膀胱がどうにかなっちまう。 掠れすぎた声は届かなくて、康史が必死に更に体を揺さぶってくる。 「………ヤス……う……う、も、っ……れッ」 膀胱の堰が決壊してじょろっと溢れ出した尿を止めることもできずに、俺はガキのようにしゃくりあげるしかなかった。 驚いた表情を浮かべる康史の顔も見れず、拘束されて顔を覆い隠すこともできずに、じょぼじょぼと俺は失禁し続けた。 「……ごめん、トール……ごめん……」 泣き出しそうな顔で、康史は尿だらけになるのも構わず俺を強く抱きしめる。 歪んでる視界の中に入ってくる康史の顔と、重なる唇から冷たい水が流れ込む。 なんで、あやまって……んだ…よ、にせ、もんの、せいだろ? 何度も唇から流しこまれる水にだんだん体内の息苦しさがゆっくり薄れてくる。 「や………す……………おれのこと…ころすんじゃ…………ねえの」 やっと絞り出す出た声で、尿だらけになっている俺の拘束を外して解放する康史を見上げて、ぐったりと体を預けたまま問いかける。 康史は、瞬間大きく目を見開いて、殺さない殺すわけねえと何度も首を横に振った。 汗でべたべたになった俺の前髪をそっとかきあげて、落ち着かせるように何度も撫でる。 「トール……ゴメン。こんなことをした理由、ちゃんと言う。許さなくて構わない」 顔を覗きこんだ康史の表情が泣き出しそうに少しゆがむ。 何に怒ったのか、なんで、憎んだのか、理由が知りたかった。 許さないなんてことは、ない。 多分、俺がわりいのだ。 「トール、好きだ。ずっと抑えてたけど我慢できないくれえ好きで、体を手に入れたら、心も手に入るって思ってた。俺に欲情して、俺なしでは堪らないくらいになればって思って、やった」 一瞬、俺はまったく考えもつかなかった拘束の理由にわけがわからず目を見開いた。 ああ…………そうか。 なんだ、……そうか、恨んだり、憎んだりしてるわけじゃねえんだ。 康史が俺の腕に掛かった脚を括っていたベルトを名残惜しそうに外した。 康史が俺をずっと憎んでたわけじゃなかったと思ったら、重たかった心がふっと軽くなった。 「……そうか。………………にくまれて、おかされたんじゃねえなら、いい」 康史が俺を好きだっていうのなら、犯されたこともなんか仕方がないような気がした。 俺好きでしたなら、しょうがないかなとか思える俺の頭の中も相当麻痺しているみたいだが、 康史に嫌われているのでなければ、俺はそれでよかった。 康史は、好きだから強姦するとか嘯くような、そういうタイプじゃねえけど、相手が女じゃねえから、そうなるのかもしれない。 頭がうまく…………動いてねえけど。 「……トール?」 俺の言葉に、康史は心底意外だったのか目が点の状態になって真意を問うように俺を覗き込む。 「……おれは、やす……を、なくしちまう…………とおもった……」 嗄れて聞きづらい声になってしまった。一番、辛かったのは暑さでも腹の痛みでもなく、それだった。 「ごうかんは、だめだ。……かなしい。おれ、とっくのむかしから、やすいねえとだめだ」 朦朧としてる頭が追いつかず、カタコトでしか話せないのがもどかしい。 「……トール……、俺の好きは……そういう好きなんだ」 必死で抱きしめてくる腕が心地よかった。 汗と尿で濡れてべとべとになった俺を、何度も康史は抱きしめる。 「……いわなきゃわかんねえべ……おれはヤスをなくしたくないくらいにはすきなんだからよ……」 最初は戸惑うかもしれなかったけど、聞いていたら腹括ってたとも思う。 こんなに悲しい思いとかしねえですんだと思うと、少し腹立たしい。 視界が暗くなって、康史が俺に唇をくっつけたなとか思っているうちに、許容量を超えた意識は谷底に飲み込まれた。

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