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優しいウソ→sideY

「全治2週間ね。ホント、康史が怪我するなんて珍しいよな」 見舞いにエロ本を山ほど置いて、すれ違った看護婦に白い目で見られたとぼやいて誠士は病院に見舞いにきた。 そりゃそうだろといわんばかりの表情で、俺は誠士とエロ本の山を見返す。誠士のこの見舞いは単なる嫌がらせだろう。 嘆息して、ぐるぐると包帯で巻かれた自分の足に視線をやった。 こんな怪我すらしてなければ、すぐにでも東流をら探しに行くのに。 東流と昨日病院から出てったあと、携帯も圏外か電源切ったのか、まったく連絡がとれなくなったのだ。 「なあ、誠士。オマエ、トールに何も聞いてねえ?」 何の手がかりすらないとかは、やめて欲しいが、基本的にそこまで東流は頭が回らないタイプだ。 自分が危機に陥る可能性とかは、絶対に考えの範疇にはいりやしない。 「何もって?オマエが怪我したのだって、俺、さっきかかってきた電話で知ったンだぜ。…………そーいや、東流どこにいったんだ?まさか、ひとりで…………」 きょろきょろと部屋を見回す誠士に嘘はない。 誠士が嘘をつく場合は、目に見えて挙動不審になるから分かりやすい。 そんな性格じゃ、刑事になってから苦労するだろうなとか、一応心配になる。 「トールに連絡とれねえ。昨日、暫くここにこれねえとは言ってたけど、音信不通になるってのはおかしい。っていうか、アイツ嘘ついてた」 いきなりバイトはありえないし、夏休み入る前にも面接なんか受けにすらいってない。 もし、短期バイトだっていっても一日中ってことはないだろうと思い、嘘とはわかっていたが何度も携帯に電話をかけたが、電波の届かないところに居るとかなんとかお決まりのアナウンスが流れてつながらない。 「何も聞いてねえけど。気になったのはこの病院の周り柄の悪い奴等がうろついてたぜ。東流に限って、捕まるってこたあねえだろうけど」 誠士の言葉に、なんとなく東流への脅迫のネタが分かる。 つまりは、俺だ。 奴等のことだ、怪我人の俺を襲うとかそういうことを吹き込んだに違いない。 脅迫されて集団リンチにあってるなら、いま、もしかしたら怪我して動けない状態かもしれない。 一刻も早くみつけないと。 「誠士くん、お願いがあるんだけどー」 ちょっと甘えたような声を出して、誠士の顔を見返すと不穏な空気を察したらしく誠士の顔がこわばり、俺をおそるおそる見返す。 「ちょ、俺はオマエ達みたいな武闘派じゃねえのよ。非戦闘員だっての……わかってるよね?」 「乱闘が好きじゃないだけで、誠士は強いでしょ。俺の考えが正しければ、多分トール、捕まってるわ」 「はあああーー??????」 素っ頓狂な声をあげて、誠士は驚いた表情で俺を見返す。 昨日東流が言ってた言葉や浮かべた表情が妙にひっかかる。 慣れない嘘も、全部。 そして、俺が思っている以上に東流は馬鹿である。相手の思う壺に引っかかりやすい。 「誠士。オマエのオキテとか全部理解はしてる。でも、今はトールの命が賭かってンだ。手伝わないわけない、よな?」 「そりゃ……オマエ怪我してるし、俺がヤルしかねえけど。」 好戦的な東流と違い誠士は慎重で、本当に仕方がない時にしか喧嘩も加勢しない。 大体は俺と東流でなんとかなってしまうというのも過分にある。 それに誠士の親は刑事で、将来は跡継ぎになるべく警察に入りたいらしい。 前科つくのは困るらしく、喧嘩になりそうな気配になるといつのまにか消えているのだ。 それについては、俺も東流もすべて了承済で誠士の将来を応援している。 でも、今回は別だ。 手を借りないわけにはいかない。 「折角、エロ本もってきてくれたのに悪いな。外に何人くらいいた?勿論全員拉致るけど」 「6人くらいかな。俺が怪しいと思ったのは。なァ、何があったんだ?」 理由を聞かなきゃ動きたくないといった様子の誠士に俺は脚を吊ってある台から脚をはずして、渡されていた痛み止めを飲み込む。 「…………ラブホで襲われた。俺、トールを拘束してたから、襲ってきた奴等にトール、多分マワされちまったと思う。」 「ちょ、マジかよ……それでトールは一人で報復に行ったわけか?」 「いや、違う」 報復するなら、俺が怪我している状態で行ったりはしない。 怪我を早く治せとしきりに言ってたのは、治ったら報復するぞのサインだと思う。 「多分、脅迫されたんだ……。無視すりゃあいいのに……」 俺が怪我していなければ、多分、東流は脅迫に応じるような性格ではない。 輪姦の写真や動画をばら撒かれても、特に気にする性質ではないだろう。 そういう性格なのは、手にとるようにわかる。 誠士も喧嘩くらいできるのに、勝手に誠士は喧嘩しない子だと決め付けてしまっている。 「確かに、命の危機だな。しょうがねえ、手を貸す。でも警察来たら逃げるからな、親父が刑事ってのも色々大変なのよ」 「分かってるって。こんな切羽詰まってなけりゃ、誠士にはお願いはできねえって」 「ああ、確かに頼まれたのは初めてだよな。どうしようもなかったときは別として。さてと、囚われのゴッツイお姫様を救いにいこうか、王子様」 誠士は手のひらを俺の頭に乗っけると勇気づけるようにグリグリと髪を乱して、励ますように大丈夫だと根拠もなく言った。 それが、十分に今の俺には励みになった。

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