ぎいいっと寝室の扉が開き、重たい体を引きずるように覇気のない様子で、濡れた髪をタオルで拭きながらスエット姿の東流が部屋に入ってくる。 いつもは、たいてい半裸かタオル１枚とか豪快な姿で入ってくるのに、しっかりスエットを着込んでいる様子に、なんだか違和感がつのる。 「風呂あがったのか？熱まだあるだろ、少し寝た方がいい」 誠士が声をかけると、東流はベッドサイドに腰を下ろして上半身を傾けて軽く身体を枕に預けるようにして座る。 「…………ああ。流石になァ、ちっと疲れた」 かすれ切った声が、なんだか少し色気を含んでいるように聞こえる。 「トール、さっきは…………ぶってゴメン」 やや躊躇いがちに声をかけると、東流はいつものような表情で唇を軽く引き上げて軽く笑って、気にするなという表情で俺を見やる。 「いや……俺が……、勝手にしたことだ。お前が怒って当然だしな。二人とも、助けてくれてアリガトな。助けにくるとか思わなかったからよ………ちょっと混乱して酷いこと、言った………」 いつもの傍若無人な態度ではなかったが、それでも努めて普通を装っているのが目に見えて分かった。 普通ではない。 普通を思いきり装い、本音を隠しているのだ。 「でさ、ヤス……、俺、アタマ冷やして考えたんだけど、やっぱ俺らさ、ダチに戻ろうぜ。恋人とか無理だわ、俺」 俺の目を見ずに天井だけ見上げて、平然としきった口調で、俺に別れを告げようとしている。 「ちょ、っと待てよ。トール」 焦ってソファーから立ち上がると、ベッドの上の東流の目の前へと駆け寄る。 誠士は良くない予感が当たったとばかりに、顔を曇らせた。 「なんでだよ、理由言えよ。いま、さっきぶったことなら謝っただろ？」 なりふり構わず詰め寄る俺の肩を、東流は軽く掴んで、背中に腕を回して興奮をあやすように優しくとんとんと叩く。 「わりぃ…………決めたから。決してオマエが悪いわけじゃない。俺なら無理だからさ、もしも、俺の恋人が他のヤツとヤってンの見ちゃったら、触りたくなくなるしな。…………それによ……俺の体、本当にめちゃくちゃで汚ねェから、オマエにもう見せたくねえんだ」 感情さえ押し込めたのか、静かな調子で言う東流の言葉に、俺は息を呑んで相手を見返した。 多分、病院で別れた時から東流のこころは決まっていたのだろう。 自分に価値がないといったのは、既に輪姦された事実があったからか。 「関係ねえよ。トール、オマエの体がどんなでも、俺にとってはトールしかいねえんだよ。ガキの時からオマエだけだったよ。」 「…………オマエが良くても、俺がもう嫌なんだ。……ゴメン……、…………ダチなのは、かわんねーからさ」 額に手を当てて顔を覆う東流の様子に、俺はぐっと拳を握り締めて、行き場のないそれを空中にぶつける。 張り詰めた空気を読むように、誠士は俺に軽く手をあげて何とかしろよと言いたげな視線を向け、静かに音をたてずに部屋を出て行った。 「俺だって、無理だよ。…………もう、ダチには戻れるわけないだろ｣ 戻れるくらいなら、最初から強姦なんかしていない。 東流は眉をキュッと寄せて、小さく不自然に笑う。 ｢聞き分けろよ。俺が…………ムリなんだ。もし、オマエが無理なら…………もう、俺はお前の前には顔はみせないからさ…………｣ まるでゲームのリセットボタンを押すように、東流は俺にそう告げた。