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不安材料 →sideT
「で、結局ヤリ過ぎて二人そろってサボりかよ。俺の説教は意味なかったのか」
俺は、流石に体中がだるさでいっぱいで、ベッドに横になりながら、携帯狩ゲームに夢中になっていた。
放課後、やってきた誠士の呆れかえった言葉に、しばらくお説教を聞いた後で、うーんとうなりながら答えた。
「いや、無駄じゃねえよ。オマエのいうとおり、燃えたぞ。甘いセックスも」
「いや、そこじゃねぇ」
最近ツッコミが鋭いなァ、誠士くん。
深々とため息をつかれながら、恐竜を狩り終えた俺は携帯ゲーム機をベッドヘッドに乗せて、誠士の顔を覗き込む。
心配性で優しいこいつは、本当に心底から俺らを案じてくれているのだと思うと、正直言って嬉しくなる。俺は心配されるのが好きらしい。
それは康史も一緒だったのか、勉強机から目を離して振り返って俺と同じような思いを口にした。
「誠士、トールのことは俺が大切にすっから、大丈夫だ。心配してくれてありがとな」
康史も疲れすぎたのか、今日は午前中まで俺と寝ていて、起きたとたんに勉強しはじめた。
本当に必死で勉強に取り組んでいる姿は、カッコイイなと普通に思う。
「お前がそう言うなら、もう何も言わねーよ、康史。信じてる。あ、そうだ、メールしてくれた久住組なんだけどさ」
「何か対処できそうか?」
そういや、忘れてたけどそっちの問題もあったよな。
さすがにヤクザ相手にひとりで立ち向かうのも厳しいような気がする。
結構大きめな組だっていうらしいしな。
「いや、話じゃ高校生に潰されたってシャレにならないからな、その若頭は降格になったらしい」
降格とか実際にそういった処分されてるなら、こっちに火の粉も降りかかってくるだろう。
本当に逆恨みってやつは面倒だし、取り除きがたい。
「報復とか面倒なんだよな、何とかならないか」
「怖がるわけでなく、…………面倒なのね」
ベッドサイドに座る誠士は、肩を落としてまったくオマエはと零しながらも、ある程度俺の気持ちは予想して把握しているようで、一度深く息をつく。
刑事のオヤジさんに頼んでも、そりゃ組の面子とやらもあるだろうから、色々こっちも動かないといけねえだろうな。
「ヤクザになる気はないしなァ。降ってくる火の粉は払うけど」
「そうだろうな。トールはスカウトされたことはあるのか?まあ、その前に元若頭も報復にくるだろうしな」
誠士の目は真剣で、流石に警官目指しているだけあって眼光が鋭い。
「スカウトはされたことはあるよ。ちゃんと断ってるけど」
確かにチンピラつぶしたときとか、何度か声かけられた。
自分にはそんな気もないとはちゃんと言っている。
「なら安心した」
「どーするかな、そこの組に乗り込むか」
俺は頬を掻いて、考えるのも面倒になりながら少し痣になっている下腹部を見やる。
「なに、その話の流れ」
ちょっと驚いてペンを置く康史の顔はやめてくれと言外に語っている。
「スジ通して、組長さんに詫び入れするのが一番だからな」
「そうだろうけど、殺されるぞ」
康史は俺を見返して、やめておけとばかりの表情をする。
大体、康史が小西にカムアウトするからこうなったんだけどな。
「死なねーよ。オマエを1人残して死ねない」
強く言い切ると、康史はうーと唸って、俺の顔を見返して天井を見上げる。
「な、なに、その男前!」
「まあ、東流ならそう言うだろうと思って、親父に仲介をお願いしておいた」
最初からわかってたとばかりに、誠士俺の肩に手を置いてぽんぽんと叩く。
「流石だぜ」
「大丈夫なんだろうな。殺されないよな」
康史は少し取り乱した様子だったが、多分マル暴の誠士のオヤジさんの顔をつぶすような真似をするようなヤクザはいないだろう。
「警官なめんな」
康史を宥めるように言って、誠士は俺の顔を見返した。
「ヤバくなったら全力で逃げんよ」
元若頭のほうはどうかわからねえが、組に狙われるよりはマシな筈だ。
不安そうな康史の顔を見やり、やっぱり心配されるのはキモチいいもんだなと、再度実感した。
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