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己の意思 →sideT
ビリビリと俺の中の闘志を高めていきながら、相手との間合いをずんずんと詰めていく。
「そうそう、ハセガワには無関係でしょ」
西覇の頬にこれみよがしにちゅっと唇を押し付ける男に、なんだかグツグツとはらわたが煮えくり返る。
いつもは非常に小生意気な弟だとしても、身内に手を出されたら腹が立って仕方がない。
「…………関係?大アリだなァ。そいつァ、俺の可愛い弟だ。腹から血を流してんのに、虐待なんてオニイちゃんは許さないんだよ!!」
俺は拳を突き出して金髪の男をぶん殴って床に沈めて、西覇の体を奪い取ると、肩に担ぎ上げる。
「…………オトウト?…………似てない兄弟で…」
金髪は立ち上がり、奪い返そうと拳を掲げてくるのを回し蹴りでもう1度床に沈める。
弱いな。
東高でいつもつっかかってくる奴らとは比べものにならないくらい弱い。
こんなんに負けてんじゃねえよ。セーハ。
「かーちゃん似なんだよ、弟は」
靴の先でぐりぐりと床の上の金髪を脚で踏みつけ、二人残っているピアスの男とロン毛の男を見やり、ちろりと舌先で唇を舐める。
この2人は更に雑魚クラスだな。
ぶちのめすまでもねーや。
それより、西覇の腹に食らっている刺傷がやべえな。さっさとカタをつけねえと、マズイ。
「どーする?向かってくるなら、ぶっ殺すけど?」
二人は顔を見合わせ、ひいいっと声をあげて廃屋を出て行く。
俺は金髪から服を剥ぎ取り西覇の腹の上に巻いて軽く止血する。
「セイハ、帰るぞ」
西覇は、うつらうつらとした様子で見上げてくると、俺の顔を認めて、ほっとしたような顔で吐息をもらして呟く。
「……アニキ……」
「バージンは無事?」
「……まだ…なんとか……先輩は?」
困ったような表情を浮かべる西覇に、大丈夫とぽんと頭を撫でる。
ったく、怪我してるのにほかのヤツが心配とか、大人になったな。
「つか、これナイフやべえね。ヤス、バイクでセイハを病院につれてってやって」
抱えていた西覇を、康史に無造作に手渡す。
「理由どーすんの?」
「通り魔でいいでしょ」
「警察いくの?」
「セーハがそこはなんとかしろ」
俺に考えさせるな。
言外に言うと、俺は西覇のカレシに近づく。
さて、俺はこいつを送ってくかな。
「俺らはこれが普通なんだ。怖くなったか?」
康史がバイクに西覇を乗せていくのを見送ると、身体を震わせて悔しそうに俯いていはりカレシに近寄った。
「西覇には信じろと………言われました。でも……俺は……西覇がもう傷つくなんていやだ」
よくわからねーけど、なんかこっちの方がほっとけないな。
かなりマジメな奴なんだろう。
守りたいのに、逆に守られちまう自分が悔しくて仕方がないのか。
俺は瀬嵐と名乗っていたそいつの頭をぽんと叩いて、ふうっと息をついた。
「自分がこーしてえって思ったら、ヤリ抜くのが男だ。オマエがどうしたいかが一番だ」
ガキの頃はそんなに力がなかった康史も、俺と一緒にいたい一心で、身体を鍛えて強くなったし、俺が背中を預けてもいい存在になった。
一緒にずっといたいという気持ちがあれば、きっと、できることだ。
それは、好きだからできる努力だろう。
だから、俺は、康史になら全部やってもいいと思えた。ヤクザの息子でも構わないといったあいつを、どこまでも守るように覚悟を決めた。
だから、きっとコイツも覚悟を決めて、西覇と一緒にいれるように、努力しなきゃなんねえよな。
男なら腹をくくれという意味をこめて、俺はそう言った。
瀬嵐は、目を見開いて頷き、何かを決心したような顔をしたが、その理由はその時の俺にはわからなかった。
「送っていく。西覇の状況伝えてやるから、連絡先をくれ」
俺は瀬嵐の連絡先をもらい、家まで送っていった。
※詳細は『花に嵐』にて。
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