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終業式→sideT
「……で、留年しそうなの?」
康史の手作りのオシャレな夕食、海鮮サラダとポークソテーを食いながら、通知表をもらった後で職員室へ呼び出されて担任から告げられたことを、俺は康史に隠さず報告した。
欠席日数と期末の結果が悪すぎたので、補講を受けて3学期にあるテストをクリアしないと留年らしい。
二学期の欠席日数の大体は、康史の所業による発熱とか怪我などによるものなんだが、まあ、成績が悪いのは俺のアタマが悪ィせいなので仕方がない。
「まあなァ、ヤスと卒業一緒にしたかったんだけどなァ」
ぼやくように言いながら、味付けが絶妙でたまらないポークソテーを口にする。
どうして、康史はこう俺の胃袋をそそる味付けができるんだろう。
おふくろや西覇ではこうはいかない。
胃袋まで牛耳られている気がするが、うまいものはうまいので純粋にそれも込みで愛してると思う。
「てか、トール就職決まってるだろ……。マズイんじゃねえか?西覇に教えてもらったほうが……」
とりあえず、それは先にメールしてためしてみた。
「ンーーー、断られた」
唯一の頼みの綱であった俺の優秀な弟は、高校1年のくせに、高校3年までの学科はすべて習得しているという秀才だ。
高校受験のときも世話になったが、今回はさらっと断られた。
ちょっと前に失恋したらしく、すごく傷心モードなんで、俺の勉強をみるどころの話ではないのだろう。
「ちょ……俺も、受験あるしなあ。西覇、まだ元気ねえの?」
「おー、まああのカレシに逃げられちゃったらなァ、可哀想になるくらい落ち込んでる」
どうやら、付き合っていた瀬嵐というカレシは、西覇が怪我で入院している間に、転校してしまって消息不明になっているらしい。
西覇が意識を取り戻すまでは、足繁く病院にきて、必死に見舞いをしてくれたので、そんな半端なヤツじゃないので理由はある思うのだけど、西覇はネガティブにしか考えられないらしい。
まあ、死ぬほどの目にあっても助けたかったやつにそんな風に逃げられたら、元々人間不信気味なやつなので、さらに拍車がかかっているっぽい。
まあ、でも男なんだし、ンなことは自分でなんとかするだろう。
康史は心配そうな表情をして頷くと、俺の目の前にビシッとフォークの切っ先を突きつける。
「そうだな。でも…………オマエも俺に同じことしようとしたの忘れないように」
「あー、だなァ。もう…………しねえよ」
オシオキはしねえって言ったくせに、あの後かなり酷いことになったのは記憶に新しい。
SM好きなヤツと付き合うのは、本当に体が頑丈じゃねえともたねえ。
つうか、むしろ俺が頑丈だから好き勝手してるんだろうか。考えがそこにいたって、康史を恨めしく見返す。むしろ、留年になりそうなのは、康史のせいに違いない。
「そうだ。西覇にいい男紹介するとか?」
ふと思い当たったように俺がぽんと手を叩くと、康史は自分のサラダを口にしながら首を横に振った。
「西覇、別に男好きじゃないでしょ。たまたま、あの子が良かったみたいだし。直接頼んでみろよ。留年って伝えた?」
「いや……」
メールで”成績やべえから教えろ”とだけ送ったと告げると、康史はやっぱりとため息を深々とついた。
だいたい兄弟の会話ってそんなもんだろう。
「留年って言えば家計にもかかわることだし、それなりに教えてくれんじゃないのか?俺は受験だし、誠士は脳筋だからね」
友人にもあたれないといえば、きっとなんとか教えてくれるだろう。
いつも、そんなもんだ。
「分かった。ちっと明日実家にいってくる」
あれからオヤジにも会ってなかったし、と思いつつ、俺は絶品の夕食に夢中になった。
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