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初詣→sideT
どれくらい、意識を飛ばしていたか定かではないが、気がついたら俺の体は綺麗に拭かれていて、康史はすっかり身支度を整えていた。
「……トール、平気?」
気遣うような心配そうな表情は、俺の1番好きな康史の顔だ。正月の朝から1番いいもの見れたなァとか。
「ン…………やべえな……ぶっとんだ」
まだ、なんだか頭がふわふわと浮遊しているような感覚がある。
二三回頭を横に振るが、まだどっかが、びりびり麻痺しているような気もする。
まったく覚えてねえけど、一体何回したんだろう。
「んー、すっげえエロエロな顔してたもんなー、トール。俺も5回で我慢したけど………」
「ちょっ、待て。ヤス。5回で我慢って…………をい、どう考えたッて十分だろうが」
かなり腰にきているかと思ったが、俺の運動器官も行為に慣れてきたのか、さほど痛みや倦怠感はなかった。慣れってこええな。
「久しぶりだったし、あんな顔してトールにねだられたら、我慢できないって。……初詣もあるし、俺は充分我慢した」
爽やかに言う康史に、言っても無駄だと俺はため息をついて、ベッドから降りる。
後処理は本当にぬかりなくやってくれるので、俺は散らばった服を着るだけでよさそうだ。
「って、…………初詣?」
「誠士が電話してきて、俺らを誘っただろ。覚えてない?」
「覚えてねェよ。……いつだよ」
康史は俺の答えに、おもしろそうに携帯をとりだし肩をそびやかして頬にちゅっと唇をくっつけてくる。
「トールが、かわいく悶えてるとき」
いたずらっぽい表情を浮かべて、近くにあったバックを手にして俺を見返す。
誠士に聞かれちまったか。…………まあ、前も聞かれてるし、1回も100回もかわんねーし、いいか。
つっても、初詣は、いつもの連中との喧嘩で終わるもんだけどな……。
「………初詣って……どーせ、東高のやつらに絡まれるだけだろ」
服を着替え終わって、康史の肩に手を置くときゅっと握り返される。
「でもさあ、今年は特に合格祈願したいしなー」
「…………そりゃ、まあ、神仏とやらに念入りに祈らねぇとだな」
俺も、康史の合格を祈願してやりてえしな。
神などに祈らんでも、康史なら合格はできるだろうけど、転ばぬ先の杖みたいな、なんか神頼みは必要だろう。
「まあ、喧嘩はなるだけ避ける方向でいこうな」
ブーツを履き終えると、康史に腕を引かれて部屋の外へ出る。
「そりゃ、なるだけ…………だな。いつも、別に好きでやってるわけでもねえんだけどなァ」
エレベータで降りて、康史は受付で先に金を払う。
後で半分渡してやるか、な。
「俺、運転できそうだぜ……」
「帰りは、俺がするって言ったよ」
渡してあったキーを、チェーンにひっかけてくるくると回しながら、康史は可愛い顔で笑って覗きこむように俺を見上げる。
「まあ………頭ン中、まだちょっとぼーっとしてるから、頼むわ」
そんな可愛い顔されちまうと、ついついそれに逆らうことができない。
薄暗い駐車場を歩きながら、置いたバイクを探してタンデムへと跨る。
「トールに背中ひっつかれてるのって、滅多にないから嬉しいんだよね」
キーを差込んで、俺にヘルメットを手渡してくる。
振り返る笑顔が、これまた可愛い。
こんな顔されちゃあ、なんでも許してしまいたくなっちまうよな。分かっててやってんだろうが、康史のあざとさは今に始まったことじゃない。
「いつもの神社にもさ、学問の神様とかっていんのか?」
「どこにでもいんじゃねえかな。そういうの良く分からないけどさ、とりあえず祈っておけばいいかなって」
こいつも、大体適当だ。
まー、テキトーじゃないと、俺の相手はできねーかな。
「そうだなー。神様だし、たいていは全知全能で無敵的なやつに決まってだろ、多分だけどな」
ヘルメットをかぶって、康史の腰に腕を巻きつける。
そんなに強くじゃなく、腰に負担がかからないように少し加減をくわえる。
グオンと気筒の鳴る音がして、勢い良くバイクが坂道を発進して地上へと出る。
がっちりとはしてはいないが、均整のとれた綺麗な背中に胸板をくっつける。
密着感があったかくて凄く心地いい。
荒々しく風を切る感覚がたまらなくなって、きゅっと腰を抱く腕に力をこめる。
やっべえな、幸せってやつだわ、コレ。
きっと。
クリスマスからだけど、幸福感ってのがハンパねえ。
いや、その前からかなァ。
神社近くになると、華やかに着物を着たオンナや、ちょっと派手目の服をきた人たちが、破魔矢や札とかを手にして神社から戻ってきている。
神社前には、露店が立ち並んでいて、ちょっとしたお祭りみたいだ。
バイクを駐輪場へ停めると、康史は俺のヘルメットをはずそうと手をかけてくる。
自分でとれるのだが、たまにゃとってもらうのもいいかもしれない。
「なんだか、プレゼント開けてるみたい」
「ぶ、俺の顔がプレゼントって、ちょっとねえべ」
タンデムを降りて康史の肩を抱くと、ちょっと顔が緩んで笑みを返される。
「トールの顔は、ほかにないくらい男前だけどな。」
「口説いてるのか?」
「なに今更……?俺はいつだって、トールのことを口説いてるよ」
笑いながら俺の顔を覗き込む綺麗な顔つきに見蕩れてしまう。
「おーい。こっちこっち!東流、康史おっせえぞ」
遠くから俺らを見つけて誠士が駆け寄ってくる。
なんだかんだ、いつもの正月になってくる。
今年もきっといい年になるに違いない。
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