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葬りさる覚悟→sideT

あんなことを、康史に思い出させるくらいなら、ずっと忘れていて欲しい。 そう、こころから、思う。 この1年、いや半年を完全に葬りさる覚悟はあった。 康史が傷つかないためなら、そんなものは、どうでも良かった。 さっきは俺だけが、好きなのがつらくて思わず康史に手を出してしまったが、康史が酷く興奮していたのに、俺はなんだか救われた。 やっぱり、この1年間がないものになっても、康史は俺を好きでいてくれたという事実。 康史が俺は満足してなくていいのかと言ってくれたが、記憶をなくすまえの康史に約束をしてたこともあり、大丈夫だと言った。 ホントは全然大丈夫なんかじゃない。 大丈夫じゃないから、寝たふりをした。 明後日は、受験だし、明日の予備校もきっちり送り迎えをしてやりたい。 色々なことが、この半年であったけど、すべて葬り去っても構わないと思っている。 「トール……?起きてた、のか」 眠たそうな康史の声が響く。 「あ、あ。もう少し寝てろよ。」 「寝すぎたら、これが夢になりそうで…………こわい」 みじろぎして、俺の方に腕を伸ばす。 俺は康史の腕をとって、そっと抱き寄せる。 「あったけーだろ?夢じゃねーっておもわねぇか?」 耳元で囁くとふと目線をあわせてくる。 「夢じゃねーと、いいなって、思う」 「弱気だなァ、ヤスがそんなに弱気だとヨォ、ちっと自信なくすわ」 俺は腕の中の康史に、少し声のトーンを落としてつぶやく。 「自信?」 不審がるような表情で俺を見上げてくる。 「そうだ。俺が、ヤスによ、愛情ってやつ、ちゃんとわかるようにみせられてんのかなァってよ」 康史はじっと見つめて驚いたような表情をむける。 そして、首を傾げて、 「トールが自信をなくす必要ないんだ。わからねーから、不安なんだろうな。どうして、トールが俺と付き合ったのか、とか」 康史の問いかけに俺は一瞬詰まる。 康史に、襲われたからが、キッカケだとして、今、それを言えるか。 俺にはいえない。 言ったとして、あの時のことに引っかかったらと考えちまう。 「ずっと一緒にいたんだぜ。んなの自然にそうなるだろ」 俺の答えに、康史はなんだか納得いかないような表情をしながら、そうだよなと返して、 「トールがそう言うなら、そうだな」 と、自分で納得を無理にするように呟いた。

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