214 / 405
葬りさる覚悟→sideT
あんなことを、康史に思い出させるくらいなら、ずっと忘れていて欲しい。
そう、こころから、思う。
この1年、いや半年を完全に葬りさる覚悟はあった。
康史が傷つかないためなら、そんなものは、どうでも良かった。
さっきは俺だけが、好きなのがつらくて思わず康史に手を出してしまったが、康史が酷く興奮していたのに、俺はなんだか救われた。
やっぱり、この1年間がないものになっても、康史は俺を好きでいてくれたという事実。
康史が俺は満足してなくていいのかと言ってくれたが、記憶をなくすまえの康史に約束をしてたこともあり、大丈夫だと言った。
ホントは全然大丈夫なんかじゃない。
大丈夫じゃないから、寝たふりをした。
明後日は、受験だし、明日の予備校もきっちり送り迎えをしてやりたい。
色々なことが、この半年であったけど、すべて葬り去っても構わないと思っている。
「トール……?起きてた、のか」
眠たそうな康史の声が響く。
「あ、あ。もう少し寝てろよ。」
「寝すぎたら、これが夢になりそうで…………こわい」
みじろぎして、俺の方に腕を伸ばす。
俺は康史の腕をとって、そっと抱き寄せる。
「あったけーだろ?夢じゃねーっておもわねぇか?」
耳元で囁くとふと目線をあわせてくる。
「夢じゃねーと、いいなって、思う」
「弱気だなァ、ヤスがそんなに弱気だとヨォ、ちっと自信なくすわ」
俺は腕の中の康史に、少し声のトーンを落としてつぶやく。
「自信?」
不審がるような表情で俺を見上げてくる。
「そうだ。俺が、ヤスによ、愛情ってやつ、ちゃんとわかるようにみせられてんのかなァってよ」
康史はじっと見つめて驚いたような表情をむける。
そして、首を傾げて、
「トールが自信をなくす必要ないんだ。わからねーから、不安なんだろうな。どうして、トールが俺と付き合ったのか、とか」
康史の問いかけに俺は一瞬詰まる。
康史に、襲われたからが、キッカケだとして、今、それを言えるか。
俺にはいえない。
言ったとして、あの時のことに引っかかったらと考えちまう。
「ずっと一緒にいたんだぜ。んなの自然にそうなるだろ」
俺の答えに、康史はなんだか納得いかないような表情をしながら、そうだよなと返して、
「トールがそう言うなら、そうだな」
と、自分で納得を無理にするように呟いた。
ともだちにシェアしよう!