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すべてを吐き出すならば→sideT
康史は、俺に縋るような表情を浮かべて答えを聞きたいと、俺の肩をがくがくと揺らす。
ずっとなんだか、どこか不安そうだった。
記憶がないから……だと思っていたけど………、多分それだけじゃないのだ。
「頭のうちどころが悪かったから、じゃねえか」
苦しいいいわけ。柄じゃねえから、多分顔には出てそうだ。
喧嘩して頭を打って気絶したから運んできたと伝えたはずだが、康史はそれを信じてはいないようだ。
「頭に怪我してねえし、あん時頭怪我してたのトールだろ」
言葉尻が少しきつくなる。俺をまったく信用していないのがわかる。隠し事をしている手前、俺も大層なことは言えない。
康史は、かなり動揺しているようで、俺の肩に食い込むくらいにぎゅっと握りこんでくる。
「そうだけど、どっかぶっつけたかもだろ」
俺の言葉もしどろもどろになってしまう。頭を打ったで納得してくれないなら、どうしたらいい。
うまい言い訳なんかすぐに思いつかない。
俺は、康史を抱いたことはない。
この言葉が、キーだ。
「オマエ、隠してるだろ」
「……………なにを」
確信をついた言葉に、俺はうろたえて視線を外す。
俺には、絶対に隠し事はむかないな。
誠士がいるわけじゃないから、誤魔化しもきかないし何のフォローもない。
最初にいろいろどうすりゃいいか確認しておけばよかった。
康史は俺の胸元をドンと叩く。
「オマエが、俺を抱いたんじゃねえなら、どうして、なんで……あの時俺の体に抱かれた感じが…………残ってたんだ」
康史の泣きそうな声に、俺は視線を戻してごくっと息を飲んだ。
洗って軟膏は塗ったけど、やっぱり気がついていたのだ。
ばれてるならこれ以上、何をごまかしても無駄だ。
隠している意味なんかない。
そこに、康史を抱いたことがないとか言っちまったし、だったら分かってしまうのは当然だ。
俺は観念して、康史のからだを抱き寄せる。
康史の肩に顔を埋めて静かに、すべてを打ち明けた。
「オマエ……は、あの日……拉致られて、マワされた……、予備校通いで別行動してたとこを狙われた」
口に出すことすら、俺はイヤでたまらなかった。だけど、これ以上黙っていて傷つけるわけにはいかない。
「なんで隠してた…………」
静かだが、康史の苦渋に満ちた言葉が苦しそうに漏れる。
こんな声を聞きたいわけじゃない。
こんな顔させたいわけじゃない。
だからだ……。
「オマエが覚えてねえなら、それでいいじゃねえか。ワザワザそれを言って、どうなるってんだ!!記憶喪失?ハッ、上等だ!俺以外のヤツらとの記憶なんて、そんなもんイラネーだろ。わざわざ、俺がオマエにそんなこと言うもんかよ」
俺の自分勝手な言葉に、康史の目が大きく見開かれる。
わざわざ思い出させてどうするっていうんだ?
俺は、オマエが嫌な記憶を引きずり出したくなんかねえ。
「…………俺は卑怯だ。記憶消せば、楽になれるなんてことはねえのに、いつも逃げてばっかだ」
俺の胸の中で、康史は堅く拳を握って歯軋りをしている。
「卑怯ね。元から知ってるし、上等だよ。俺はオマエがどんなに卑怯だってかまわねーし、逃げたかったら、逃げりゃいいんだ。それで、オマエが壊れちまうよか、絶対いい」
「……トール……」
どうすりゃ、康史のキモチを上向けてやれるだろう。
俺はぐっと康史の体を抱き返し、頬を撫でながらじっと目を見つめる。
「それができねーなら、俺が抱いたってことにすればいい。その記憶、思い出す前に俺の記憶にすり替えてやっからさ。なあ、俺に、オマエを抱かせろよ」
唇を押し当ててゆっくりと舌先を吸い上げる。
甘く噛みしだくと、ふっと心地よさそうな康史の鼻音が聞こえる。
「…………かっこよすぎる………よ、トール」
「ハッ、せいぜい、惚れなおせ」
俺は康史のからだをひょいと抱き上げ、姫抱きにすると寝室へと足を向けた。
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